第103話 蜂と叫び
第2、第3部隊は進入するといっても正確にはチエノスケを中心として最大行動範囲の円周を左回りか右回りかでギリギリ近づくことになる。
「
「もう、下に集結してござる。」
「早いな。」
「基本、ワシのいる所についてくるのです。昨日一晩ありましたからなぁ。追いつきましたわい。」
艦の位置を秘匿するなら、
もし、そのまま仇花に近づくことがあるとすれば・・・・。
山の起伏や他のアダケモノの隠れやすい遮蔽物の少ない所。
ここだ。川だ。この川は城の南を東から西へ流れ天然の堀となっている。この川に沿って侵入しよう。
この川の上流で、
それをシロウは大型拡張視界上に示した。ここよりずいぶん西だ。
これで、第2、第3部隊も行動の幅が広がる。
「ここへ移動する。」
グンカイがうなづく。
「
「御意。」
航海担当のメルがすぐ号令を発した。
「両舷前進
「おっけぇー」また緩い声が響く。
ムラサメがゆっくりと滑り出した。
「取り舵
サヤが左に舵を取る。
ムラサメは
第2、第3部隊も進入を開始している。続々と天井の
メルは蜂の視界の処理を担当している。三つの部隊を同時にだ。
スズメバチの
「うーん。思ったよりアダケモノの数は少ないね。花の周りで都合のいいやつを作ってぶつけてくるのかも。第2部隊の映像から、北側には
「間もなく第1部隊が
第1部隊の視界が拡大された。そこでシロウ達が目にしたものとは?
「なんだこれは・・・?」
それは、捕らえられた
ー敵の目的は、勇那をク海の生け簀にして資源に変えることー
ーそのためには、恐怖や苦痛、そして絶望が一番効果的だー
スズメバチは空中に留まることができる。そこに映し出されたのは凄惨な現状。
言葉では言えない。いや、言いたくない。
チエノスケは仇花に気取られないため、心を落ち着け蜂を操っていた。
ー深く、固く、冷たくー
そのチエノスケは蜂の映す光景の一点を見つめている。
「母上・・・綾・・。」
そこには、己が命をその槍に頼んでまで守ろうとした母と妹の姿があったのだ。
何をされているかは・・・言えない。
「あああああああぁぁぁぁぁっ!」
その喉からは、雄たけびとつかない叫びがあがった。
画面が揺れ、映像が乱れる。チエノスケの感情が蜂に逆流し、何かに襲われたのだ。
「チエノスケっ!」
ムラサメが揺れた。
舵を握っているハズのサヤが画面を見せないようにチエノスケに覆いかぶさっていたのだ。
グンカイが肩を抱き、シロウはその手を握った。
チエノスケの息が荒い。
槍一本でアダケモノにぶつかり昏倒した時でさえ、こんな姿は見せない男が・・・。
「チエノスケ、チエノスケ、チエノスケ・・・」
シロウはかける言葉がない。名前だけを呼ぶ。
「ハッ、ハッ、ハッハ・・・ハッハッ、わっ若、申し訳ありません。取り乱しました・・。」
「良い。」
ここで取り乱さぬ者などおらぬだろう。そんな薄情、我は好かぬ。だから、
「チエノスケ、動くぞ!」
「シロウ様!」メルが叫ぶ!
「どうした?」
「ユウジ様が発艦しました!」
「あんのアホウ!・・・そんなお前が大好きだぞ!ムラサメっ発進する!」
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