第102話 蜂と影


虎成とらなり城から東へ45㎞ ク海潜水艇ムラサメ 艦内


 燃えた虎成とらなり城の仇花から45㎞。仇花アダバナが感知する範囲の外側にムラサメは停止している。すでに偵察ドローン部隊は発艦済み。

時間差を持たせてランダムな方位から仇花アダバナの縄張りに侵入させる。部隊は三つ。

 チエノスケは、蜂の指揮と通信に専念させ、情報処理はメル。分析はユーグが手分けする。


「さて、どんなことになっているやら。」

 シロウは座席の腕置きを無意識に握りしめていた。

 頭に雲のように浮かぶ懸念事項はいくつかある。


 まず、ク海が消えていないこと。これは陽弧とロクロウの戦闘が継続しているか、陽弧の身に何かあったことを示している。時間経過から後者が濃厚だろう。どちらにしろロクロウの所在を確認しなければならない。


 それと、虎河朔耶介こがさくやのすけの現在地だ。ナツキを連れている。虎河こが兵の兵力の確認。また彩芭さえばの赤鎧とも交戦したのだ。どのくらい、どこへ入り込んでいる?五百いおの国の兵の存在も考えねば。こいつらどんな関わり合いをもっておるのか。


 我々は三つの国を相手にしているのだ。


 友軍に関しては、現状確認と共闘するのには、人員と時間が足りない。成間宮なるまみや城は気になるが、ク海外だ。移動は徒歩になる。そちらに労力を割く余裕はない。危険と思われる方の情報収集が先だ。


 アダケモノに関しては、変幻自在に異なる型で対応してくる・・か。こちらも合わせて対応しなければな。


 最後に状況次第だが、どうやって仇花に近づくかだ。どうにか見つからずにいきたい。


 チエノスケが斥候せっこうをしてくれている今、こちらの攻撃手段はユウジ、グンカイ、ステラとユーグだ。


 グンカイ、ステラとユーグの攻撃はかなり近距離でないと有効ではない。ユウジは仇花アダバナ切り落としの最終手段だ、温存したい。


仇花アダバナは感情の波と振動で敵を探知しておるのよな?見つかりにくい方法とか条件って何かないか?」


 ユーグが眼鏡を指で押し上げた。おっ何か知っているのか?

「感情波識別っていうのは、感情の波という特別な波の伝播でんぱによって得られた対象の位置や敵性を判断するんだよね。でもこいつは電探とは違って、遮蔽物しゃへいぶつの影響を受けないんだぁ。回析とか減衰いう現象がないの。なんでかというとこの波はそもそそも存在次元が違うからだよ。」

「は?ユーグ先生、もっと分かりやすく。」

「うん、ク海の水って違う次元の現象なんだ。」

「え?分からん。」

「違う次元の水みたいなモノをこの世界に無理やり重ねているだけだから隠れても見つかるの。感情をいだくだけで」

 おい、だから体に悪いんじゃないのか?

「で?どうすれば?」

「えーとねぇ」

 ユーグのご高説はしばらく続いた。


「第1部隊、南から進入開始。」

 チエノスケが声をあげた。

 虎成城は二つの川の合流地点の中州にある。南側に一本東から西へ流れ、西に一本北から南に流れる。

 この二つの川が城の南西でひとつに交わる。北、南、西は開けた大地だ。

 現在、ムラサメは城の南東の山あいに潜んでいる。

 第1部隊は、城の東に南北に延びる山あいに隠れながら城を目指す。

 第2部隊は、山をまず北に移動し、そこから現れたかのように川沿いに南下する。

 第3部隊は、第1部隊と南に回って分派し西まで回り込んで突入する。


「さぁ、作戦開始だ。」

 これから仕掛けていくためにも、多くの情報が欲しい。


 ドローンは飛ぶ。艦の目となるために。


 集中するシロウ達、しかし、二つの知らない影が艦橋のドアに近づきつつあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る