第81話 雨と氷
雨がポツポツと降っていた。場の概念は今だに雨なのだろう。
ムラサメの艦内には居住区と呼ばれる部屋が左右に二つあった。それぞれ十名が寝ることができるらしい。便宜上、
しかし、一番の特徴は唯一、人間と宝が共に存在できる場所ということ。
ムラサメはその外殻によって、ク海からの振動感情波というものを遮断している。つまりはこれにより、ク海が人間の感情を揺さぶり奪い去り、五感等の心身に影響する現象を防いでいる。
しかし、この艦は、燃料自体がその感情波である。内殻においては、人間に影響しない程度に調整されており、ク海のその波を活動源としている宝は姿を現すこと程度はできるようになっている。
つまり、この場所では、みな人間の姿で存在できるということ。
サヤは艦橋にいた。
モモが艦橋の広い所で休んでいるからだ。
女性陣では明丸の取り合いがあり、寝かすならやはりモモの背中が良いのではということで落ち着いたのである。
夜はもう遅く、消灯しているが全天型の
ステラとマリスは中央の艦長席の両側にある席で耳当てをして毛布を被っている。
「やあっと、会えたねぇ。」
サヤは眠っている明丸の手を優しく握る。明丸が指を開き、握ったその時にはサヤの親指はその温かさに包まれていた。
「眠れないのか?」
シロウが立っていた。
「ほら、水じゃ。」
シロウはサヤに水の入った器を差し出し、艦長席に座る。
シロウは席に身を預けて、サヤの方は見ない。
「すごいものよの。ギヤマンの器にこれほど透き通った冷たい水。
サヤは水は受け取ったが何も言わない。
「その子が、ムミョウ丸か?」
「・・・はい。」
シロウがゆっくり水の器を傾けた。
「探していた人物なのか?」
「ええ、六年近く。」
六年も、ひとつ、ふたつの年の赤子を探し続けるとはな。
普通なら、頭がおかしいと思うところだ。しかしこの子は・・・。
「間違いはないのか?」
シロウは水の器越しに天井の雨粒を見つめながら、静かに聞いた。
「ええ、ウチを
「・・・それは良かったな。」
シロウはそれ以上口を開かない。
「サヤ様、お話してもよろしいのでは?」
「夜はまだ長いよ。サヤ。」
メルとマチルダが立っていた。
雨がポツポツと天から叩く。
サヤもポツポツと口を開く。
サヤの生まれは、この
かつてその国は、南にではなく、北に広大な海を抱いていたという。
その国の名は
かつて、北の王として
サヤが言うには彼女はその国の
家が崩れたのは、その父が南から侵攻してきた
それが十年前、サヤ七歳の時。
「その日、ウチは手習いに通い始めていて、屋敷に戻った時のことでした。」
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