第64話 鎧と恨み

成間宮なるまみや城へ続く街道 


 モモの瞳は桃色に光ってくれていた。


 荷車全体を覆うように、六芒星の盾狼ランドルフは輝く防壁を形成してくれている。耳をつんざくような衝撃音がして、斬撃の刃は盾により無意味となる。


 サヤは子どもたちの上に覆いかぶさっている。


 この娘は思い切りと度胸はいいのだが、後先考えない所がある。良い意味で。


 騎馬武者共は、行き過ぎて立ち止まりこちらの様子を見ている。何か話し合っている様子で、馬を落ち着かせながら、一人を中心に円を描く。


 あの赤備えの鎧、先ほど虎成とらなり城で見た虎河こが兵とは違う。これは話に聞く北の那岐なぎの国が誇る騎馬隊の連中ではないだろうか。


 しかし、なぜ川上からこやつ等は来たのだろう。そちらの先には成馬宮なるまみや城があるはず。


 真ん中の騎馬武者の十字槍が赤く光りはじめると残り二人の槍も連動して光りはじめた。


 月夜の晩に赤い鎧の赤く光る槍先が不気味にこちらを狙っている。



 ヒグラシの鳴くのが止んだ。



 騎馬武者の馬が連れ立って、前足を上げていななく。


 仕掛ける気だ。


 サヤはあわてて、家族連れを自分とモモの後ろに隠す。


 一直線にサヤ達に向かう三つの赤く光る直線。目が光るモモ、そびえたつ防壁。


 しかし、


 今までにないことが起こっていた。


 あの大イノシシさえ弾き返した盾。牛ども十匹を蹴散けちらした盾。


 その無敵の盾に騎馬武者の赤い十字槍は三本ともつき刺さっているのである。


 突き抜けてはいない。だが切っ先は壁を割って中に入りこんできている。


 その穂先は不思議な赤い光りを帯びている。これが秘密かもしれない。


 サヤの心に不安が奔った。


 アダケモノとは違う。何か別の恐怖がある。面当ての奥に見える普通の人間の目に。


 両端の二人は馬を捨て、地に降り踏ん張っている。モモと押し合いだ。


 この武者どもは、牛とは違って盾を解いても体勢は崩さないだろう。逆に解いた瞬間にその尖った穂先をねじ込んでくるに違いない。


 その間、中心の一人は騎乗したまま、後退して距離を取っていた。これは・・・助走をつけている。突撃だ。


 あっという間だった。赤い騎馬武者は馬の背を蹴って身ひとつ、槍一本で飛んで降ってきた。


 ぶつかる。


 赤く光る穂先が六芒星の盾狼ランドルフを光の欠片かけらにした。狼の苦悶の声が響く。


 そして、その凶刃はサヤに向かう。



 

 その騎馬武者は崩れ落ちた。


「そち等の鎧には、ちょっと恨みがあってなぁ。」


 サヤを狙った槍を踏みつけ、サヤの腰から抜き取った小太刀を横に振り切ったシロウがそこに立っている。

 

 シロウは足元の槍を素早く拾い上げると、小太刀を右側の武者に投げつける。瞬間に左から襲い来るもう一人の槍を払い、二段に突く。敵は後ずさった。


 二対一、敵は一人は上段に構え、一人は低く構える。シロウは初撃はぐと決めていた。


 敵は手練てだれだ。三騎編成の斥候せっこうなのだろう。


 斥候せっこうは手強い。なにせ、どうやってでも生きて帰るのが任務だから。


 一瞬、いきなりのことだ。


 右の武者が動いた。シロウの穂先が左にあったからだ。ぐシロウの十字槍とその槍が上から絡む。シロウの槍が上に動いたスキに、その空いた胴を目掛けて下からもう一人の槍が伸びて這いあがる。


 サヤは目をつぶってしまった。


 そして、目を開けた時、二人の敵は倒れていた。


 ひとりは背に矢を受け、もう一人は黄色い光りに付きまとわれている。


「若っ!ご無事で何より。」


 グンカイとチエノスケがそこには立っていた。

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