第29話 家臣と娘


「約束であったな・・・。」


ーゴトッー 


 魂座ごんざめていたユウジの首を放した。


「ゴホッ、ゴホッ、オエェェッ。」

 ユウジはむせる。


「ようも、やってくれたものよ。」

 魂座ごんざは貫かれた右胸をいとおしそうに撫でた。


「ああ、そのクルクル回る緑の円の仕組みは分からぬが。」


ーゴスッー 


 振り返り自らの槍を引き抜く。

 瞬間、ユウジは身構みがまえる。


「もう良い、死合しあいは終わりじゃ。本来ならワシが死んでおる。」

 魂座ごんざはじっと天井を見上げている。


「見たところ、その緑の輪っかは我の攻撃を吸収し、ヨソに飛ばしたり本人が逃げ隠れできて、他の所から物も取ってこれる。最初のうちは逃げ隠れしていたが、途中から我が攻撃の威力を中にため込んでいたな。もしやと思って槍を差し入れて放ってみたら、なんとまぁ。」


 ほぼ、遊ばれてるなとユウジは冷や汗が出る。


「ワシの打ち込んだ攻撃の圧力を出口をすぼめてさらに強めて、槍ごと返しよったわ。」


 ちゃんと分析されてたんだと、ユウジはなぜか悲しくなってきた。


「ワハハ、かく、久々に楽しかったぞ。骨があったわ!骸骨ほねだけに!」

 そういうと、チリチリと大地が震え、黄色い光りが魂座ごんざを包む。

 そこには、骸骨ではなく年のころは三十代なかばの鎧武者が立っていた。

 意外と美丈夫にまいめである。



「ああ、なんだ。骸骨がいこつの姿はいわゆる・・・ノリだ。」

「ノリで骸骨とは・・・」

 やめてくれよ・・心臓に悪い・・・と思うユウジ。

 

 しゃべるとボロのでるたちだな。この男は。

 ユウジは奇妙な親しみを感じた。・・・どこかで会ったような。


「ワシはな、そなたの中で騒いでおる娘どもと根は同じ存在よ。」


 娘?見えているのか?聞こえているのか?


「とーちょーしてんだ!とーちょーしてんだ!」

「おかしいですわね。無線封鎖むせんふうさは完璧なのに。」

「生活音が漏れる薄い壁の家には住めないわよ。」

 お姉さま方、好き勝手言われるのは結構ですがお静かに。


 魂座ごんざはゆっくりと近くの岩に腰を下ろした。

「配下の者どもは、肉体をもつまでの力がその身に還らぬのだ。容量というべきか。」


「容量?」

 なんだその表現の仕方は・・・。


「器というかなぁ。魂の揺れを受け止めるだけの大きさというか」

「MPが低いんだねぇぇ。」

 ローラ、またわけの分からい単語を持ち出すのはやめなさいとユウジは伝えた。


「まぁ良い。かわいそうだから、ワシも力を抑えて骸骨がいこつしとった。」

「しとったって。」

 そこが、この男のいうノリなのだろうか。


「ワシと共に死んでくれた者どもよ。そりゃぁ地獄のそこまでつわ。」

 誠実な親分なのだろうか。それよりも気になるのは・・・。

「力を抑えてアレかよ・・・」


 フト顔をあげて魂座ごんざが変なことを言いはじめた。

「それでな、死合しあってみて思ったのだが」

「何を」

 なんだか、今までの流れだと嫌な予感がする‥ユウジ。


「ワシが、そなたの配下かしんになってやろう。」

「はあっ?なぜ?」

 どうした?なぜそうなる。オレは狂犬は飼えぬぞ!ユウジはホントに内心あせる。


「おもしろそうだから。」

「なんじゃそれ!」

 ただの戦闘狂じゃないか!まずい断らねばオレの生活の平穏が・・・ユウジはさらに焦る。


「ワシの見る所、そなたはこれから先いろいろありそうじゃ!それにな・・・」

「いろいろあって欲しくない!」

 ユウジはあんまりすぎて途中で話をさえぎってしまう。


ーゴンッ―

 魂座ごんざは槍を少し持ち上げ、柄尻つかじりで地面を叩いた。

「ワシは退屈はしたくない!腕を振るわせろ!」

「戦狂いではないかっ!やっぱりっ!」


「でも、悪い話ではないわ。」

 目の端で紅い人が言う。

「そうですわね。調査や今後の戦闘では大きな力になってくれるでしょうし。」

 反対側で紫の人が言う。


「うーん。確かにそれは・・・」

 確かに異常な場所にいるのだ。

 普通のことをしていたのでは命を落としかねない。

 いや実際一度あの世に逝きかけてるユウジだから。


「良いのだな・・良し!決めた!」

 そちらに決定権があるのだろうか?魂座ごんざさんよ。


「我が名は、魂座ごんざ 現八げんぱち!只今より手勢五百名を率いてお味方いたす。」

 いや、・・名乗ってしまわれたよ。それよりも気になるのは・・・。

骸骨てぜいが五百人?」

「そうじゃ。つぶぞろいですぞ。殿!」

 粒ぞろいって・・・それより!

「と、殿?」

「じゃ、せつぞぉく!」

 ローラさん。余計なことはしなさんな。正式にご招待じゃないか!いきどおるユウジ。



「おっ!そなたらか?ボソボソと聞こえていた声は。」

「そうだよぉーよろしくー。」

 あーあ、歓迎会がもう始まってる・・・。


「おお、見る所、みな美しいのぉ。ワシの娘に劣らぬほどの器量きりょうよしばかりじゃ。」

「娘ぇ?」

 脳内でユウジ、ローラ、マチルダとメルの声が同時に響いた。

「うん、おるよ。」


「・・・骸骨がいこつなのですか?」

 ユウジは失礼な質問を恐る恐る聞いた。

「まさか御冗談を!殿。年頃の娘ですぞ。どこの父親てておやがそんな破廉恥ハレンチ姿かっこをさせましょうや?」


「やめなさい!部下の人たちが可哀そうでしょう!」

 破廉恥ハレンチだなんて、でも骸骨だから鎧はともかく服はどうなっているの?と思っていたユウジではあるが。

 先ほど、派手に散っていった配下の骸骨も何やら骨と骨をくっつけて治療?して復活している。

 

「しかし、アレはワシより強いですわ!ハハハハハハ。」

「おい!」


 魂座ごんざより強いやつだと・・・勘弁してくれ。

 頭の中、どんちゃん騒ぎのユウジの目に光るものがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る