第30話 城と部外者


魂座ごんざ殿の城へ行く?」


「そうです。」

 胸を叩いて魂座ごんざが言う。


 話し合いをしようにも、あんまりうるさいので全員外に出てもらった。


「ねえ、お城に住んでんのぉ?」

 ローラが興味があるのか魂座ごんざの頭の上をグルグル回っている。


「おう、聞けばク海に落っこちたというではないか。あるじ不遇ふぐうおり、我が城を挙げて盛大にお迎えするのは家臣として当然じゃろう?主殿の拠点としていただくのよ。」

 いや、家臣にした覚えがまったくないユウジ。


「城、悪くないわ。ゆっくり寝られるかな?」

 マチルダはもう疲れたと言わんばかりだ。そうだね。疲れたわ。


「私は湯あみがしたいですわ。」

 メルは膝のほこりを払っている。気持ちは分ります。


「ゴチソウあるぅ?」

 ローラ、あなた、ここなら食べ物は転がっているのでしょ?ユウジは呆れる。


「おおう、任せよ!・・・と言いたいのだがな。」

 何であろう。魂座が突然歯切はぎれが悪くなった。


「ひとつ問題がある。」

「問題?」

 さて、今までで一番深刻な顔をしているが・・・。


「我が娘よ。」

「娘さん?」

 みんなが魂座ごんざに注目する。

「話の持って行き方によっては、戦闘しあいになる。」

 

「よし、来た道を戻ろう!」

 即断そくだんだ!即決そっけつ異論いろんはさまない!そうユウジは決めた。


「ちょっと待ってくだされ。ようやく主を見つけたのだ、どのみち、あのにも知らせねばならぬ。ついて来てくだされ。」

 しかし、あなたより強いのでしょう?


「では、これまでのお付き合いということで。」

 異論いろんは挟まないのだ!別の道を探す!主殿と呼ばれても立ち上がろうとする。


「ああ、そのような恥をかけば腹を切る!」

「いや、切れる腹ないでしょ!」

 骸骨だった腹に刀を刺しても説得力ない!


「気持ちの問題でござる!」

「気分で腹切れるんかい!」

 これをゆるすと何度でも切りそうだ。



「・・・で、娘さん強いんでしょ?」

 あなたでも、生きた心地ここちがしなかったのに・・・。ほほが引きる。

「うむ!ワシの娘だから!ワハハハ。」

 この骸骨オヤジは・・・本当に腹切らせて、縁も切ってやる!叫びそうになるユウジ。


「・・・ところで、魂座ごんざ殿はこんなところで何をしていたんだ。」

 マチルダがフト思いついたように聞いた。


「狩りじゃ。アダケモノを狩っておった。」

「狩ってどうするの?」

 子どもみたいに素直な疑問が口をついて出た。


「食べる。」

 魂座ごんざは何を当然なことを聞くのかという顔だ。


「いや、アレって食えるの?」

 逆にユウジ以外四人がユウジの顔をのぞき込む。

 え?そっち?そっかオレが部外者よそものか!部外者よそものの少年はあせる。


「モノによりますな!ブリのアダケモノがワシャ好物で!」

 何でもありだな。


「今日も娘の好物を探しておった。」

 ちゃんと父親してるんだ。骸骨のくせにとみんな思ったが口にはしない。


「そこに、私達がいたと。」

「おう、良い獲物えものだと思った。」

 どういう意味で良いのだ。もうユウジには基準すら分からない。


「我等を食うつもりだったのか!」

「いや、さすがに主殿のような生ものは直接食べぬ。腹を下す。」

 生もの?腹を下すぅ?・・・そう言われるとなんかすごく傷つく。


「我等が喰うのは落ちた感情きもちよ。」

感情きもち?」

 やはりな、ク海の者はそれが活力源たべものなのだな。


「娘が喜ぶのですよ。いろいろな魂の揺れを喰うと。」

 揺れときたか、この問題は深い意味があるのかもと考える。

「娘が父上、これ美味しいというてくれるのが、何より嬉しゅうてな。」


「しかし、その感情とはもともと生物の・・・」

「だから、殺してまでは喰いはせん。大昔の人間が落ちた木の実を拾って食っていたのと同じことですよ。」


「まぁそうね。」

 マチルダがそんな感じと伝えたいみたいだ。


「しかし、アダケモノは違う。」


「狩って食べて減らせば、我らが花神めがみ様は喜ばれますからね。」

 メル、それはどういうことだとユウジが訊こうとすると

石神いしがみ様は怒るけど。」

 ローラが事もなげに言った。


「どういうことだ?」

 ユウジは知らないことが多すぎる。この連中にとっては常識あたりまえでも陸の上の人間には想像もできないことだ。いったい何の仕組みがあるのだ。


「まぁ、細かい話は城には入れてからにしませぬか?遅くなると娘にしかられる。」

 魂座が槍を杖に立ち上がった。




 こいつらは、基本的に訊かないと何も教えてくれないよな。


 ユウジは魂座ごんざの城への道中、そのようなことを考えていた。


 常識と前提、いやいや存在自体が全く異なるのだ。


 ク海を境にして。


 三十後半の気楽な落ち武者(父骸骨)、静々しずしずと歩く藤色の深層の令嬢っぽい娘、どこぞの異国の近衛兵このえへい将校しょうこうかなんかを思わせる気品のある紅い美人、そして、おとぎ話の花から花へと飛び回る蜜蜂か蝶のような能天気な光る妖精。


 個性だけが豊かすぎる面々やつら


 歩き続けるその背中達を見つめながらフト気づく。



 この中で、一応生きてるのはオレだけだ。



 ユウジはそれに気づくと怖さを感じた。



 もしかして、今このの近くで生きている人間はオレだけかもしれない。

 いや、そうだろう。子どもの頃なら泣き出していたかもしれない。


 ユウジは自分が本当に生きているも十分怪しいが、身の上に起こったことを思い出すと不安になる。



 もしや、オレはク海ではなくて、本当は死んでしまって幽霊となって彷徨さまよっているのではないかと少年ユウジほほをつねった。



 痛みがある。感覚はあるのだがな。



 そうすると、逆に幽霊などは、魂座ごんざなどと同じく、感情とか記憶の何らかの力の集合体が、特定の条件で留まった状態を指すのではなかろうか?



 神すらも同じか?



 待てよ・・・。


 魂座ごんざと他の三人娘、何か明らかな違いがあるが頭の中で整理がつかない。



 もやもやしながら、部外者よそものの少年は皆の後をついて歩いた。

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