第24話 面影と零点


「どうだ、ワシに傷ひとつでもつけてみよ。そうしたら話を聞いてやらんでもない。」


 どこぞで聞き覚えのあるようなセリフ。


 腹が立つが、傷ひとつつける以前に近づくことができるのか疑問だった。

 

 そもそも武器がない。


「動かぬか。・・・動けぬか、ならばワシが動かねばな。」


ーブオオオゥウウウー


 槍を右から左へ払っただけで、凄い太刀風たちかぜだ。


「やるしかないのか。」



「・・・あの場所へ。」

 頭の中でローラの声がする。なぜヒソヒソ話?


「だって、ドクロのおっちゃん、とぉーちょーしてんだもん。」

 盗聴とうちょう?ユウジたちが脳内で話していたことに気づいていたからだろうか。


「・・・ユウジ様、ユウジ様。右150度約150m。壁の側面2m上でございます。」

 メルさん、あなたも内緒話ですか?ノリノリですね。

 言葉を通じるようにしてくれたためか、単位が分かるようになったので言っていることの意味は分る。


「・・・来ますっ!」

ーズシュッッッッッゥゥゥゥッァァァー


 先ほどより鋭い突きが正確にユウジに襲いかかる。


 これはいけない。


回転魔法陣カタカムナ、同時展開!分離してっディスエンゲージッ!」

 同じ向きの回転する魔法陣がユウジの体を挟んだ。

 瞬間に体の前に現れた魔法陣の風で真後ろの魔法陣に吸い込まれるユウジ。


「うわっ」

 次の瞬間、背中から魔法陣が飛び出る。


推進円陣バーニア、各自点火!必要数、自動オートで!」

 背中にまた別の魔法陣が複数出て空中で姿勢を整えてくれる。


ーゴゴゴォオオオンー

 遅れて前後の遠い場所から轟音ごうおんがする。


 緊急回避の技として、ユウジの体に攻撃が到達しそうな場合、その場所に魔法陣を展開する。


 弾く場合は魔法陣の回転掃き出し口を相手に向ける。


 強力な攻撃でその場にいると余剰の攻撃力でユウジが危険な場合は、魔法陣の回転吸い込み口を攻撃の来る方向に向け、衝撃力自体を空間転移させるのだ。


 この場合、ユウジの後ろにもう一枚魔法陣を起動させ安全な後方に亜空間を移動させ退避させた。


 そして魂座の槍の威力はもっと後方に出口を設定しておいた。


「・・・ユウジ、100mだからね。」ローラが告げる。

「・・・ユウジ様、約100m退きました。」メルが告げる。

 なるほど、魂座ごんざは100mの言葉の意味は知らなさそうだな。上唇うわくちびるを少し舌で湿らせた。


「じゃ、ローラ、これくらいでよろしく。」

 ユウジは親指と人差し指で丸を作った。


 瞬間だった。


 闇に光がきらめくと槍の衝撃波ソニックウェーブが乱発された。


 ユウジは全面に魔法陣を張りジリジリと下がりながらそのすべての攻撃を吸収してかわす。


 どんどんと近づいてくる。大砲のような威力だ。


「化け物がぁ」

 思わず叫んでしまう。


「こんなにドッカンドッカンされたら壊れちゃうよう!」

 前面に張る魔法陣は円のきわきしむ。


 衝撃波が放たれる度に、洞窟内が紅い怒りの色に染まる。


 左右に飛んでも追いかけてくる。


 魂座ごんざの槍の威力は周りの地面をもくり抜き、尋常じんじょうではない量の波石の破片はへんを飛ばす。


還流防壁ウインドブレーカー!回しちゃってぇー」

ローラは、前面の魔方陣を強固にするためとこれらの破片の弾丸からユウジを守るため、圧縮した空気の膜をユウジにまとわせていく。


 風が透明な鎧となりその身を守る。弾丸や爆風による破片などは通さない。


リマ、急速に近づくっ!上っ!」

 天井の波石が一直線に殺気の赤デッドラインを放つ。


 ユウジは左右に盾のように魔方陣を生み出す。

 そして右肘をあげ、その先にある魔方陣に右手を突っ込む。


きたぞ!」

 魂座ごんざ渾身こんしんの力で槍を叩きつけてきた。


 ユウジは右の魔方陣から紅蓮の炎を引き出すと笑顔で左の魔方陣へ飛び込み、天井に仕込んだ魔方陣に即座に転移し、後ろから魂座ごんざに向かって振り下ろす。


 真っ赤に燃える紅玉の瞳マチルダ



ーガキィィィンー

魂座ごんざは突くために前にあったハズの槍をすでに後ろに回していた。


 紅玉の瞳マチルダの渾身の一撃はすんでで防がれている。

 炎は骸骨の身を焼かない。すでに煉獄の火に焼かれつくした言わんばかりに。


「ほおう。驚いたな。」



 ユウジは飛びのきざまに魔方陣で距離を取る。

「今のに反応するか。はやすぎるな。」


 ローラの言う100mは空間転移を使用できる距離、メルのいう100mはユウジとマチルダの距離を測るものだったのだ。

 つまり、攻撃を躱すと同時に100m後退してマチルダに近づき、100mの空間転移可能範囲で壁に刺さった紅玉の瞳マチルダを引き抜いて攻撃しようという腹だった。


 苦肉の策が防がれて、焦るユウジの脳内に能天気のうてんきな声があふれた。

「マチルダぁ、おかえりぃ」


「ああ、お役に立てなくてすまない。いきなりの事で身動きが取れなくてね。」


「今、大変ですの」


 これは場所を問わず女子会が始まりそうだ。


「マチルダ殿もそちらへ?」

 ほんの少しの間なのに懐かしさを覚える。


「ああ、状況は最悪みたいね。協力させてもらうわ。」 

 元気そうな声に少し安心する。


「じゃぁ、マチルダ、火器管制ファイアーコントロールお願い。メルその分の演算能力を表示機能スクリーンと通信機能の充実に回して!」


「わかりましたわ」


パッと3人娘が目の前に現れた。でも実物がいるわけではない。


「スクリーン表示に私達の美しい姿を反映ミラーリングできるようにしました。追従モードは酔いますので部分固定モードにしますね。」

 メルが自信満々の報告をしてくる。


「美しいのは分かるが、その格好は・・・。」

 ツルツルの動きやすそうな服だが、なんというか・・・体の線が刺激的というか。


「こういうのはお約束なの!」

 上半身だけ表示されているローラが騒いでいる。

 どこの世界の約束なのだ?


「そんなことより、あの化け物はどうする気だい?」

 ローラが消え、マチルダが表示された。ローラがうるさいのでメルが設定変更したようだ。


「あの間合いで、マチルダの攻撃をしのぐのだからだな。」

 手詰てづまりに近い、みんなどう思うと言いたい。


「言っても私、懐剣だからね。炎はオプションなのよ。」

 マチルダがスクリーンの左で訴える。


「え、そうなのか?」

「そう、本来の使用目的と違うから・・・」



「来るっ!」メルがスクリーン右上で叫ぶ。

ーズガァアァァァァァッー

「何をほうけておる。」


 あまりに至近距離で突きが放たれたために魔方陣で受けたが、槍は円陣の中に入ったままである。


「ほおう、おもしろい技だな。」


ーガッー

 ユウジはマチルダの炎で首をき切ることを狙った。

 しかしそれは魂座ごんざかぶとの前立てにはばまれている。

 

 俯く姿勢になったその兜の下に一瞬、生身の顔がのぞいた。

 ・・・ユウジは見覚えのある顔のような気がした。


「!?」

 次の瞬間、魂座ごんざは右手の槍を手放し、左手でユウジの首を絞めた。

 すかさず右手は腰の刀のつかを握る。

 このまま胴をぐ気だ。


「どれ、顔を見せてみよ。面影おもかげがあるか」

 何を考えたのか知らないが一瞬、顔が近づいた。


ードギュゥゥゥンー

 魂座ごんざは右胸を貫かれていた。・・・自らの槍で。


「・・・・零点接触ゼロコンタクト」 


 その左手の手のひらには、ユウジが親指と人差し指で作った丸より少し大きめの回転魔法陣カタカムナが光っていた。

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