第1話 少年と若様
小さな泡と大きな泡、まるで手を取り合うようにくるくると
少年はかつてもこのような流れに身を任せ、
もしかすると、もっと広大な場所で、もっと長い時間を、深い深い水の底から、あるいは自分自身がたゆたう一つの泡となって
バカなことを。だが
「ふう」と
手足は冷たいが、頭の下の石は太陽に温められて
目を閉じているとせせらぎと虫たちの声が耳に届く。
ツクツクボウシの声も混じっている。
少年は
陽に温められた顔と
「なぁんかええことしとるのぉ」と声がした。
影が
水しぶきを上げながら、
「ひぃやぁぁぁ あっつい時はこれが一番じゃあぁぁ!のう?」
少年は身を起こし、
「これは、
「ええんじゃ!ゆっくり寝とけ。あーひゃっこいのーたまらんのぉー」
若様と呼ばれた青年はそう言って冷たい川に、水に頭を突っ込んでしまった。
そして「ぶばぁぁぁっ」勢いよく
「
「はい。」少年は答えた。
「それならこりゃたまらんのう!ひゃっひゃっ!」
首筋に水をかけながら、座ったまま飛び
「ロクロウ、そちも入れぇ気持ちええぞ」
若様は方手でひらひら招きながら岸で膝をついて刀を抱いている
「いえ、私はここに。」
「ほうか、ならばこれじゃ」
すると、手ぬぐいを川の水につけて固く
彼は
「ありがとうございます。若、馬達の
「おお、頼むぞ。
ロクロウがうなづくと、
「いや、暑いのう。このままじゃぁ夜も寝れんぞ。」
「朝夕は多少涼しくなりますれば・・・」とロクロウ は答えた。
「いや、暑い暑い。昔はまだまだ涼しかったぞ。なあ?」
若様はユウジという少年に向かって、同意を求めているようだった。
「確かに、毎年だんだんと暑くなってきていると思います。」
「そうじゃろ。ユウジ、我はク海のせいじゃと思うとる。」
「・・と申されますと?」
思わずユウジは若様に問い返してしまった。
「近頃の戦でク海近くで人が死にすぎた。ク海もせり上がろうて。海面上昇というやつじゃ」
「しかし、ク海がこの
ユウジがよく分からずそう
「理由はよくわからん。だがク海の海面のすぐ下でさえ、今でもここよりずいぶん涼しいのだ。・・・・我らが子どもの頃のようにな。ひとつ言えることは、ク海は我ら人間を追い出し、
ク海について伝わるのは、約八十年前に発生したとも言われているこの世界の現象で、目に見えない
ク海の海面下では自然に悪影響はなく日光が遮られたり空気がなくなることもない。動植物も普通に生きている。
ただひとつ、ク海の海面下では特に人間だけが心身に
そしてク海の海面が上昇する条件のひとつに、死んだ人間の
・・・つまりは人間だけを
「若、そのくらいで。」
ロクロウが
「おう、そうじゃな。気分が
若様は
「それより、ユウジ」
「はっ」
「そちんとこの
若様はにんまりと
「えっ?」
ユウジは頭のてっぺんから声が抜けてしまった。
「何を
ユウジの祖母は、この若様の乳母であったユウジの母と共にもともと若様のそば回りの世話をしていた。
祖父、父、兄そして母が
特別な役目のため、年に一度の
「帰ってくるのですか?何か
「いや、そうではない。そちの家の
母を亡くし、祖母と姉が仕事に出て、家にはユウジ一人が残されていた。
「えぇ、はい。ああ・・いえ・・使用人がおりますれば、女手は足りておるのですが・・・」
祖父の代からの下男夫婦が身の回りの
「聞けばな。三年前から婆様のともに出仕しているそちの姉のナツキが、もう充分にお役目を引き継げるようになったそうでな。自分は帰って、家のことをしっかりしたいんだと。」
加えて、三年前からしっかり者の姉もそのお役目を手伝うために出ているものだから、ユウジは家でかなり自由に過ごしていた。
「祖母がそう申しておりますので?」
「そうそう。そちの家にはいろいろと苦労をかけたからな。それにもう年じゃ。」
「いつでござりましょう?」
ここが
「へっ?」
「帰ってくるのは、いつでござりましょうか?」
あの元気な婆様に年は関係ないとユウジは思っている。
「まぁ、明日にも
「あぁぁ十日後ですか・・・いや、婆様のことだからもっと早くなる。これはいかん・・・」
ユウジは婆様には頭が上がらない。
「まぁ、今日のように、川で遊んでずぶ
若様の目がいたずら
「若様、私はこれにて」
ユウジは急いで頭を下げ、立ち去ろうとした。
「まぁ待て、そもそもそちは、
「・・・へっ、ああ、そのつもりでした。」
「我も顔を出すところじゃ。
そう、川向うの寺で
「若様も宝引に参加されるのですか?」
「まぁ立場上、
若様は
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