ウワサの重来者 どうか、心振るえる一生を。(中辛)
おいなり新九郎
序 霧と虚構
先ほどまで鏡のように滑らかだった水面に、
ここは海なのか、それとも川なのか。ただ
その船のブリッジには、一人の女性士官が目を
「そろそろね。
やがて
「
女性士官はすばやく風を読む。後ろからだ。
「これは
「右、
「
彼女は充分に船の
ここだ!
「とぉりぃかぁぁじ!
船は彼女の指示した通り左へ
しばらくの後、伝令が届く。
「
太陽はすでにその身を半分
その丸い窓が、大人の
向かい合わせに十名が座れるテーブルには、白いクロスがきちんと
一番奥には、他とは
少年は、そのテーブルの一番手前に腰を下ろしていた。
目の前に置かれた紅茶が、ゆらゆらと右回りにカップの
「体は
女性士官が少年の正面に座りながら
彼女は、彼を海から救いあげた人物だ。
白い手袋を外し、テーブルに置いた彼女は、自分のティーカップを両手で優しく包み込む。
「ごめんなさいね、お
彼女は少し照れくさそうに言った。金髪を後ろでお
一方の少年は、黒い
「これより
それを聞いて、少年は初めて顔を少し上げた。
女性士官は優しく
「さあ、飲んで。私が淹れた特別製のお茶ですよ。」と、手のひらを見せた。
少年は再びカップに目を落とした。
金色の
カップを手に取り、一口、口をつけようとした瞬間、少年が目を上げると、彼女は
少年は手を止めたが、カップは彼の
それを確認すると、女性士官は席を立ち、
「明日の朝には目的地に着きます。お部屋に案内しますね。」と言い、手を差し伸べた。
その手には、再び白い手袋がきちんとはめられていた。
明くる朝、
霧が立ち、視界は
少年は薄手の白いシャツにズボン、しかも
女性士官によると陸上側にすべて用意してあるからともかく降りてみてくれとのことだ。
階段状の
「・・・君の人生に
祈るように言った。
少年はその柔らかな手の
そして、彼は一歩、そしてまた一歩と、桟橋を踏みしめた。
「あれ?」と少年はしゃがんで足元の板に触れる。
桟橋の階段が
「なんだこれ!」
振り返るとそこはもう霧が立ち込め、船と女性士官は見えない。
それよりも少年の
ここで引き返すのは危ない・・・彼はそう思った。
もう引き返せない・・・進むしかないのか。
ともかく前には足場が ある。
ものすごく変だがこちらの方がマシのようだ。
彼は怖さが
足元の四季はめくりめく流れ、彼の意識は溶けてしまうように薄れた。
霧の船上、女性士官はつぶやいた。
「どうやら無事についたみたいね。君にはきっとまた会えると思うわ。」
そして
「
霧の中を進む船の
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