第3話
あれからまた、1ヶ月が経った。
あたしはイザベルや友人達と学園生活を満喫しながら過ごしていた。お昼を一緒に食べながら話に花を咲かせたり放課後に約束して町でスイーツを食べ歩きしたり。女友達とならではの楽しみ方をしていた。
両親は学園を卒業するまでは縁談は気にせずに自由に過ごしたらいいと言ってくれている。あたしはそれをチャンスだと捉えていた。
しばらくは惚れた腫れただのはどうでもいいのだ。まあ、来年以降は縁談にお見合いにと忙しくなるだろうが。それまでは平穏に過ごしたい。今は正直言うとこれが本音だった。
季節は11月も半ばが過ぎていた。そろそろ、冬が始まる頃合いだ。晩秋と言うべきか。
「……ティーナ。今日はどうする?」
「私は。このままお邸に帰るわ」
「わかった。私は1人でカフェに行くわ。お土産にクッキーでも買って帰るから」
さらりとイザベルは言うと。カバンを持ってスタスタと行ってしまう。あたしは黙って見送ったのだった。
自邸に帰ると。部屋にて学園の課題をやっていた。専属メイドのミリアとメリーは廊下にて待機中だ。
(……ふう。数学と国語と。歴史と。たくさんあるわね)
ため息をつきながらも教科書を見ながらノートに問題を書き写していく。問題の解答を考える。今は数学の課題をしている最中だ。はっきり言って元の世界より易しいかというと。そんなことはない。同じくらいには難しかった。黙々と解いてはいるが。自信はない。あたし、前世でも勉強は中の上くらいだったし。まあ、こちらでもそれなりに努力はしていた。何とかなるかな。呑気に思いながら課題に取り組んだ。
2時間後くらいに課題の7割方は終わった。確か、国語と歴史の提出期限は4日後だったか。また息をつきながらぐるぐると肩を回す。コキコキと小気味よい音が鳴る。不意に寝室のドアがノックされた。返事をするとミリアが入ってくる。
「……お嬢様。招待状が届いています」
「……こんな夜半に?」
「家令のスミスさんがお嬢様は勉強中だからと気を使ってくれたんです。今になってお渡しはしますが。夕刻に届いたものです」
「あら。今から確認するわね」
「はい。目を通されたらまたお呼びください」
あたしは頷くとミリアから招待状を受け取った。宛名などを見てみたら封蝋に皇家の紋章が
<アルペン伯爵令嬢を皇太子たる
ルーカス皇子の婚約者候補として今回の夜会に招待したい所存。
ならば、出席することを命ずる。
これは勅命なり。
期日は12月下旬なり。
イーサン・ホワイティ>
あたしは最後のサインに目をひん剥いた。な?!イーサン様といったら現皇帝陛下じゃないのよ!!
道理で勅命とかあるわけだわ。しかもあたしを婚約者候補として夜会に招待だって?
嘘よ。冗談じゃないわ。来年までは学園生活を楽しむ予定だったのに。しかも期日は12月の下旬って。今からだと1ヶ月と少しだけしか猶予がない。あー、もう。両親には伝えるとしてだ。領地にいる長兄と次兄にも手紙で知らせるか。エスコート役はどうしよう。ドレスやアクセサリー、靴なども新調しないと。やることはいっぱいある。あたしはげんなりとしながらもメイドのミリアを呼んだのだった。
早いものでまた1週間が経った。課題が終わり一息つきたいところだが。ちなみにエスコート役は次兄がやってくれる事が決まった。長兄は領地の運営もあるし既婚者でもあるので見送る事になったが。
学園に行きながらもドレスに使う布地を選び、サイズを測って。お針子さん方に囲まれながらそれらをこなす日々だった。母上がアクセサリーや靴選びは代わりにやってくれる。おかげで助かった。課題をしながらだと時間を取りにくいからな。
「……ティーナ。後半月したらドレスが仕上がるそうよ」
「そう。もう1ヶ月もしない内に夜会ね」
「本当ねえ。しかも皇太子殿下の婚約者選びのためのね」
あたしと母上はほうと息をついた。今は休憩も兼ねてお庭の東屋にてお茶を飲んでいる。ラズベリーのタルトやブルーベリーのスフレもお茶請けとしてテーブルに置かれていた。
「……まさか、私が皇太子殿下の婚約者候補になるとは。思わなかったわ」
「そうね」
「私はただのしがない伯爵令嬢なのに。しかも傷物の」
「……まあねえ。わたくしもあなたが皇太子殿下のお相手候補になるとは。未だに信じられないわ」
「私も信じられないわよ。このまま、オールドミスとして暮らしていくとばかり思っていたから」
再び2人して息をついた。皇帝陛下の御目は節穴なのか。そんな失礼極まりない事を考えてしまうくらいにはあたしも驚いていた。
お茶――紅茶を飲みながらラズベリーのタルトを食べる。うん。酸味と甘味がバランスよくて美味しいわ。外の生地がサクサクだし。そうやって現実逃避しないとやっていられなかった。
あたしは晩秋の穏やかな昼下りながらも。母上と夜会について話し合ったのだった。
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