第5話 出でよ爺

 長嶋が当たった、違う、ベーゴマが当たったオオカミが離れた隙に、テレキネシスで木刀を引き寄せる。

 目が痛くてしきりに頭を振っているオオカミの横っ面を木刀でぶん殴った。

 殴られたオオカミが横に吹っ飛ぶ。最後まで確認せず、次の標的に狙いを定めるが、俺の周りにオオカミが居ない。

 慌てて振り返ると、残り2匹のオオカミが姉を襲うところだった。


 姉のパイロキネシスの方が先に発動して、1匹のオオカミが炎に包まれる。だが、その隙に最後の1匹が姉に襲い掛かった。

 このままだと姉がヤバイ。俺は一か八かと、思い付いた物をアポートで念じた。


 オオカミが姉を噛みつく寸前、引き寄せた物が姉とオオカミの間に立ち塞がった。

 それを見て姉が目を見開く。

 俺が引き寄せたのは、通学中に毎日見かけるカーネル〇ンダース人形。白いスーツを着た、笑顔が素敵なおじいさんだ。

 何故、カーネル〇ンダース人形なんだと思うかもしれないが、俺だって分からない。咄嗟に浮かんだのがそれだったんだから、仕方がないじゃないか。


 姉を噛みつこうとしたオオカミは、突然現れた人形に頭を打った。

 左手を広げてアポートを念じる。今度取り寄せたのは、『王』と書かれたベーゴマ。それをテレキネシスで弾丸の様に弾き飛ばす。

 ベーゴマが命中するのと同時に、姉がパイロキネシスで発火させる。

 オオカミは速球のベーゴマと延焼により、地面でもだえ苦しんで息絶えた。




「姉ちゃん無事か?」


 駆け寄って声を掛ける。


「驚いたけど大丈夫。そっちは?」

「涎でベトベトだけど、怪我はない」

「じゃあその傷は?」


 そう言って姉が俺の右肩を指さした。

 頭を動かして見てみれば、姉の言う通り右の肩に引っ掻き傷があった。


「いつの間に? 全然気づかなかった」


 おそらく伸し掛かられた時に引っ掛かれたのだろう。戦闘中はドーパミンがドバドバで気づかなかったが、今になって痛くなってきた。


「ヒーリング」


 姉の手から癒しの光が放たれる。光が俺の肩を包み込むと、みるみるうちに傷が癒えた。


「治った。ありがとう」


 傷は治ったけど、気に入っていた「家政夫」の文字がプリントされたTシャツが破けたままなのが残念。


「こっちこそ助かったわ。でも、なんでカーネル〇ンダース?」


 姉が地面に倒れているカーネル〇ンダース人形を見て首を傾げる。


「……さあ?」

「自分でやっといて分からないの? 相変わらず何考えているのか分からない弟」

「ケン〇ッキーには悪い事したな」

「元の場所に戻せないの?」

「アポートは引き寄せるだけで、送る事はできないらしい」

「……黙ってよう」


 窃盗だけど超能力がバレるのは危険。姉の意見に同意して頷いた。

 戦闘が終わって、前回のゴブリンとの戦闘の時と同じく、能力Lvを上げる選択画面が現れた。

 姉は今回の戦いで自分の攻撃力を上げる必要を感じたのか、パイロキネシスを選択。

 俺はパワーとテレキネシスで悩んだが、木刀を地面に立ててテレキネシス側に倒れたから、テレキネシスのレベルを上げた。




 世界が反転して俺たちは自宅に戻って来たが、行く前と違ってテーブルの上には長嶋と王のベーゴマ、テーブルの横にカーネル〇ンダース人形が立っていた。


「「…………」」


 姉と一緒に無言で人形を見上げる。

 正直言って邪魔。あの時は助かったけど、今は邪魔でしかない。


「純、倉庫でアポートを使って、この人形をしまってきて」

「そうする」


 店の倉庫に行き、アポートでカーネル〇ンダース人形を適当な場所に置いて戻る。

 椅子に座ると、姉がスマホの画面を俺に見せた。


「あの場所に居たのはだいたい14分。そして、今の時間は19時47分。誤差はあるかもしれないけど、間違いなく向こうに居る間、現実の時間は止まっているね」

「と言う事は、向こうにずっと居ると俺たちだけ歳を取るのか?」

「そうとは限らないわ。と言うよりも、実体は行ってない可能性が高いね」

「その根拠は?」


 俺の質問に姉が俺の肩を指さした。

 差した先に視線を向ける。すると、オオカミの爪で破けたはずの「家政夫」Tシャツが直っていた。


「なるほど、理解した。このゲームは意識だけを謎のワールドに飛ばして、飛んでいる間は時間が止まっているんだな」

「多分それで正解。さらに付け加えるならば、純がアポートで取り寄せた物は、あの場所に残らず一緒に戻る。逆に向こうの世界の物は現実に持って帰れない」

「ん? 試したの?」

「うん。帰り間際に石を持って帰ろうとしたけど駄目だった」

「……姉ちゃん。今日はゲームをやめよう」

「疲れた?」

「いや、ルールを読み直す必要を感じてる」


 俺の考えに姉が頷いた。


「その考えは賛成。手に入れた超能力も、ずっと使えるための条件があるみたいだしね」

「そうなの?」

「ええ、ゲームのゴールを読めば分かるよ」


 普通の人生ゲームならば、人生に成功した大富豪エンドと、人生を失敗した貧乏エンドの2つがある。

 だが、このゲームの場合、人生に成功した場合は能力を永久に得られて、人生を失敗した場合だとゲーム中の能力を全て失うというエンディングだった。


「なるほど。本当に超能力を手に入れたいなら、ハッピーエンドを目指さないと駄目って事か」

「始めた時は思い付きだったけど、対戦しないで正解だったね。報酬が良すぎて姉弟だったとしても、こんなの関係が壊れるよ」


 俺も負けて超能力が剥奪されたら、親兄弟だろうが間違いなく勝った相手を嫉妬する。


「それでこれはどうする?」


 ゲーム途中の人生ゲームを指さして姉に質問する。


「このままで。途中で中断したら、能力が剥奪されるかもしれないし」

「分かった。んじゃ、俺は説明書を読んでるから、先に風呂入ってきな」

「了解」


 こうして姉が風呂に入っている間に、人生ゲームの説明書を読む。それで分かった事は……。

 ゲームを途中で中断した場合、超能力は消える。

 ゲームの中ではカードの能力しか使用できない。

 ゲーム中に取得したカードの能力は、ゲームボードから25m離れると使えなくなる。ただし、戻ればまた使えるようになる。

 不正行為を行うと、ゲーム以前から取得した全ての超能力が抹消される。

 以上の事が判明した。

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