第4話 オオカミルーレット
ゲームを再開する。
ルーレットを回して止まった針の数字は3。マス目には、『旅の賢者に会う。教えを受けて新しい能力を得た。能力カードを一枚引く』だった。
俺は『アポートLv2』、姉は『ヒーリングLv2』のカードをを手に入れた。
姉がカードを引くと、引いたカードが消えて、先に持っていたヒーリングカードのレベルが増えていた。
俺が手にしたアポートがどんな能力か分からなかったので、スマホで調べる。
アポートとは、別の場所にある物体を取り寄せたり、どこからともなく登場させる能力らしい。
試しに、自室に置いていた中学校の修学旅行で買った木刀をイメージして念じると、目の前に木刀が現れてテーブルに落ちた。
「その木刀まだ持ってたの? 邪魔だからとっとと捨てなよ」
木刀を見た姉が呆れた表情を浮かべる。
「粗大ごみ扱いだからヤダ。それに戦闘があるんだったら武器の一つぐらい必要だと思う」
「確かにそうね……」
次にルーレットを回して止まった針の数字は9。マス目には、『能力の開花に失敗。どれか能力レベルを1失う』だった。俺はアポートを、姉はヒーリングを1レベル下げる事にした。残念。
気を取り直してルーレットを回す。止まった針の数字は4。マス目には、『オオカミが現れた。ルーレットを回して止まった数字だけ敵が現れる』だった。
「10が出たら死ぬかな?」
「かもね」
「戦闘で死んだ場合って本当に死ぬのかな? その辺りの事、説明書に書いてない?」
「ちょっと待って、読んでみる」
俺の質問に姉が説明書を確認する。
数ページめくって該当する項目が見つかったのか、声を出して読み始めた。
「えっと、『実際に死ぬことはありませんが、能力レベルが下がります』だって」
「死なないのは良かったと言っていいのか……な?」
「でも、ゴブリンが死んだときに悪臭がしたから、多分、噛まれたら痛いと思う」
「狂犬病にも感染しそうだな」
「ヒーリングって感染症にも効くのかな?」
「台所の流しにしてみたら?」
「何で?」
意味が分からなかったのか、姉が首を傾げた。
「感染症も菌による感染なんだし、ヒーリングが感染症に効くなら除菌効果でキレイになるんじゃね? 知らんけど」
「能力の無駄使いね。だけど試してみる」
姉が席を立って台所へ行くと、直ぐに嬉しそうな様子で戻って来た。
「水垢がポロッと取れた。これで掃除が楽になる」
試せと言った俺が言うのもあれだけど、ヒーリングの定義ゆるくね?
「それじゃ純、ルーレット回して」
「分かった」
負けても死なずに能力レベルが下がるだけ。開き直った俺は、1が出ますようにと祈りながらルーレットを回した。
回っていたルーレットのスピードが落ちて、カラカラと音を立てる。
針が止まった数字は6だった。
「6か……能力があっても勝てるか微妙な数字だな」
「多いけど10がでるよりかはマシと思えば、まあ、許せる範囲?」
「俺が前衛はやるんで、死ぬ前に回復よろしこ」
「了解」
修学旅行で買った愛刀の『太秦』を掴む。
なお、ネーミングは京都の太秦村で買った木刀だから。
ゴブリンの時と同様に世界が反転して、再び草原に移動した。
草原を撫でる爽やかな風を頬に受け、春のような暖かい気温に気分はピクニック。まあ、これから殺し合いが始まるんだけどね。
椅子から立ち上がり、心の中で『パワー』と念じて木刀を振った。
「パワーを使ってみたけど、実際に計測しないと強くなったか分からないな」
「ジャンプでもしてみたら?」
その提案に高く飛んでみた。
「……え?」
急に視線が高くなる。驚きながらも下を見れば、3mぐらい飛んでいた。
「……ビックリした」
「体に異常はない?」
「別になんともないね」
「そう。普通、突然筋力が増えたら、ホルモンバランスや体幹が崩れたりするみたいだけど、平気みたいね」
「筋肉が膨らんだ感じはないから、やっぱりこれも超能力だと思う」
最初にこのカードを引いた時、超能力を疑ってスマン。
「後は実戦よ。そろそろ来るわ」
姉がそう言って、俺の後ろを指さした。
振り返って遠くを見れば、草原を駆ける6匹のオオカミがこちらに向かっていた。
「それじゃガンバルぞい」
「いってらー。タイム測るね」
姉がスマホのストップウォッチで時間を測り始めた。
そう言えば時間のズレを調べるんだったな。すっかり忘れてた。
姉に見送られて、前に進む。
動物を殺すのは初めてだけど、ゴブリンを焼き殺しても平然としていた姉を見た後では恐怖を感じない。今考えると、あれは惨かったと思う。
残り30mの距離まで近づいて来たから、こちらも走り出す。
普段通りに走ったつもりだったが、パワーの力が働いて一瞬で距離を詰めた。
先頭のオオカミと目が合う。驚いている様子だったが、安心しろ俺も驚いている。
木刀を振ろうとしたが、間合いが近づきすぎてチョット振れない。という事で、勢いそのままオオカミの顎を目掛けて蹴りを放った。
「キャウン!」
蹴りが顎をヒット。全長2m以上あるオオカミが、グルングルンと縦回転しながら宙に吹っ飛んだ。
それに驚いたのか、5匹のオオカミが足を止める。視線は宙を舞う仲間のオオカミに向いていた。安心しろ、繰り返し言うが俺だって驚いている。
「はっ!」
一番近いオオカミの頭を目掛けて木刀を振り下ろす。よそ見をしていて不意を突かれたオオカミの頭に木刀が直撃した。
オオカミが地面に倒れる。殺したかは分からないけど、脳震盪ぐらいは起こしているだろう。
警戒したのかオオカミが俺から距離を取り、唸り声を上げる。
すると、1匹のオオカミの体が突然炎に包まれた。
突然の事に敵全員が驚く。俺は姉の攻撃だとすぐに分かって、驚くことなく木刀を振った。
攻撃が躱されて木刀がスカッと空振り。はははっ所詮、俺は素人。自慢じゃないが、剣道なんて体育の授業ぐらいでしかしたことがない。
反撃にオオカミが噛みつこうと、口を大きく広げて襲い掛かってきた。
噛みつかれる寸前、木刀を手放して両手で顎の上下を押さえる。噛まれずに済んだが、オオカミはそのまま体重を乗せて伸し掛かってきた。手がベトベトするから涎を垂らすな。
パワーの能力のおかげで力負けしていないが、このまま動きを封じられたら接近戦の能力のない姉が危ない。
何とかしようと考えて、アポートで取り寄せた物をテレキネシスで動かし、オオカミに放った。
取り寄せた物が目に当たり、オオカミが「キャン!」と、悲鳴を上げて俺から離れる。
アポートで取り寄せたのは、爺さんの店で売れ残っていた、表面に長嶋と書いてあるベーゴマだった。ところで、何で長嶋?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます