第3話 ゴブリンとの戦闘

 姿を現した生物は、おそらくゴブリン。

 全身緑色の肌をして、身長130センチぐらい。身長だけなら俺の勝ち。

 口元には牙が生えており、額には角が生えている。右手にはこん棒を持ち、服は腰布一枚履いているだけだった。

 もしコイツがゴブリンじゃなくて、ただの通りすがりのコスプレおじさんだったら、空気読んで帰れと言いたい。

 それにしても、ゲームタイトルに超能力と書いておきながら、出てくる敵がSFではなくファンタジー。詐欺だと思う。


「いくら陽気な気温でも、外で全裸は性犯罪じゃね?」

「冬は寒そう」


 ゴブリンを見た俺たちの感想。

 ゴブリンが近づく。頭の部分を見ればたん瘤が出来ていて、そこから血が流れていた。

 推測だけど、俺が投げた小石が当たったぽい。


「……その、なんかゴメン」


 せっかくの登場を出オチにしたのは、素直に謝ろう。


「ぐぎゃあぁぁぁ!」


 ゴブリンが叫んで、こん棒を振り回す。

 どうやら俺の謝罪は受け入れないらしい。


「ヒーリング」


 その時、何を思ったのか、突然姉がゴブリンに向かって淡い光を放った。

 淡い光はゴブリンの瘤を包み込むや、その瘤が消えた。


「ちゃんと怪我が治るね」


 ゴブリンの様子に姉が頷く。

 傷の癒えたゴブリンは、敵と思った相手からの突然のヒールに驚き、叫ぶのを止めてキョトンとしていた。なお、俺も姉の行動には驚いている。


「パイロキネシス」


 今度は動きを止めたゴブリンに向かって火の玉を放つ。


「ぐぎゃあぁぁぁぁ」


 火の玉が命中したゴブリンが炎に包まれて、悲鳴をあげた。

 

「ゲームとはいえ、えげつなくね?」


 肉が焼けるような異臭に顔をしかめて言うと、姉は仕方ないでしょと言った様子で肩を竦めた。


「だって、勝つか負けるかのルールだもん」


 その割り切った考え方は、頼もしいと思う。

 炎に包まれたゴブリンは地面をのた打ち回っていたが、暫くすると息絶えたのか動かなくなった。


 俺、偶然石が当たっただけで、何もしてなくね? この草原に来てからずっと椅子に座ったままだし……。

 ぼーっとして姉を眺めていると、彼女は席に着いて茶を啜った。


「この後はどうなるのかな?」


 ほっと一息入れて姉が呟くと、それに答えたのか目の前に次の文字が浮かんだ。


『好きな能力のLvを一つ上げてください』


 なるほど。空中に浮かんだ文字の仕組みは分からないけど、どうやら戦闘に勝てば能力レベルを一つ上げれるらしい。

 空中に浮かんだ文字には、説明文と俺が持っている『パワー』と『テレキネシス』の文字が浮かんでいた。

 少し考えて、『テレキネシス』を選択する。能力の文字を指先で突くと、俺が持っていた『テレキネシスLv2』カードのレベル部分がLv3に上書きされた。


「姉ちゃんは何を選んだの?」

「安全を考えてヒーリングをレベル2にしたよ」


 ゴブリン相手にパイロキネシスは、オーバーキルだった。

 ゲームの後半はどうなるか分からないけど、現時点では良い選択だと思う。

 能力を選び終わると、またもや世界が反転する。そして、俺と姉は元の家の飛ぶ前と同じ場所に居た。




 ひとまずゲームは置いといて、家に戻ってから姉と話し合った。


「……凄い仕様だったね」

「科学じゃないのは間違いないね。これも超能力か何かか?」

「催眠術みたいな感じなのかな?」


 催眠術は超能力なのかな?

 だが、問題はそこじゃない。俺たちはゴクリと息を飲むと、互いの目を見た。


「純、貴方の能力の方が安全だから、やってみてよ」

「……オーケー」


 飲み終わった湯呑を浮かべと念じる。

 すると、現実でもゲームの世界と同じく、湯呑が宙に浮かんだ。

 それに驚いて姉を見れば、彼女も浮かんでいる湯呑を見て驚いていた。


「ヤバイ。純、テレビで有名になれるわよ!」

「拉致されて人体実験されそうだから、ヤダ」

「うーん、確かにそうかも」


 姉が残念そうにため息を吐いた。


「それにしても凄いな」


 超能力を開花させるゲームなんて聞いた事がない。

 一体、どの会社が作ったのかを調べようと、ゲームの蓋に書いてあるメーカを見た。


『日本超能力研究社』


「「……怪しい」」


 あまりにも胡散臭い社名に、姉弟揃って口を開く。

 スマホで検索した結果、日本超能力研究社なんて名前は一件も出なかった。


「……ますます怪しい」

「一体、爺さんは、どこでコレを手に入れたのかな?」

「孫の俺から見ても謎の人だったからなぁ……」

「そうね。あまり自分の事を話さなかった人だし。昔、私が聞いてもはぐらかされた記憶があるよ」


 俺も一度質問した事があるけど、何となく「ミステリアスな俺カッコイイ」的な空気を出してきたから、ムカついた記憶がある。


「それで、まだゲームを続ける?」


 そう言いながら柱時計を見れば、時計の針は夜の7時45分を指していた。 

 あれ? 食事を終えてゲームを始めたのが7時半ぐらいで、体感だと1時間近く過ぎている感じなのだが、まだ15分しか経ってないらしい。

 訝しむ俺の様子に気付いた姉も、視線を追って時計を見るや首を傾げた。


「……もしかして、ゲームの中に入っている時は時間が止まってる?」

「スマホは、たしかバックグラウンドから復帰したら時刻同期するから無理か。姉ちゃん、アナログ時計とか持ってない?」

「持っているけど部屋まで取りに行くの面倒くさい。スマホのストップウォッチを使えばいいでしょ」

「それがあったか、普段使わないから忘れてた」

「検証も兼ねて続けるよ」

「了解」


 不可思議な事だらけだけど、このゲームは面白い。

 姉に頷いて、ルーレットを回した。

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