第2話 『超能力版 人生ゲーム』

 倉庫から『超能力版 人生ゲーム』を持ってきて、ボードをテーブルに広げる。

 ボードを見れば正規版の人生ゲームと同様に、すごろくが描かれていた。中央左には1から10までのルーレットがあったから、試しに回すとカラカラと音がなった。


「……ふーん。珍しいね」

「なにが?」


 ガイドブックなみに分厚い説明書を見ていた姉の呟きに視線を向ける。


「これ、人生ゲームなのに一人から遊べるよ」


 人生を賭けた対決をしないとは、ボッチ専用か何かか?


「ルールを知らないアホが作ったローカルルールじゃね?」

「海賊版でもさすがにそれはないでしょ」


 冗談に姉は手を左右に振って否定する。


「まあ、良いわ。面白そうだからローカルルールで遊ぼ」

「二人居るのに?」

「これは純と対戦するんじゃないの。私たち姉弟とこのゲームとの対戦よ!」

「ちょっと何言っているのか分からない」


 ツッコミを入れたけど、姉は俺を無視して説明書を流し読みする。そして、序盤のルールが分かると、車の駒を取りだして青とピンクの棒キャラを突き刺した。


「それじゃ始めるよ」


 姉がスタート位置に車を置いて、説明書片手に進行する。


「えっと……まず最初に能力を決めるらしい」

「資本金じゃないの?」

「お金の概念はないみたい」

「金が必要ない人生ゲーム? SFと思いきや、まさかの原始時代ときたか」


 ……なるほど、海賊版なのも納得だ。こんなヘンテコな人生ゲーム、タカラ〇ミーの役員が存在を知ったら全力で訴訟を起こす。


「冗談ばかり言ってないで、この能力カードから一枚抜いて」

「へいへい」


 姉がシャッフルしたカードの束から上の一枚を捲って取る。

 カードは『パワー』。ムキムキの腕の絵と身体能力増加Lv2と書いてあった。別に超能力じゃなくね?


「パワーって能力みたいだけど、マス目のどっかで筋力判定でもあるのかな?」

「さあ? 私はパイロキネシスだって」


 カードを見ている間に、姉が引いたカードを俺に見せる。

 そのカードには、炎の絵と発火能力Lv3と書いてあった。

 パイロキネシスは、念じるだけで発火する超能力だったかな?


「カードの使い方も分からんし、レベルが何かも分からん。本当に謎なゲームだな」

「私はその謎が面白いと思う事にしてる。えっと……後は従来とおりに止まったマス目に従うだけみたいだから、純、ルーレット回して」


 姉の指示でルーレットを回す。カラカラと音がなって数字の2に針が止まった。


「いち、に……えっと『新たな能力を得る事に成功。能力カードを一枚引く』だって」

「ふーん」


 俺も姉も、まだこのゲームの仕様が分かっておらず首を傾げる。


「うーん……ルールが分からんけど引くよ」

「私も引くね」


 一枚ずつ能力カードを引く。

 俺はテレキネシスLv2というカードを、姉はヒーリングLv1というカードを手に入れた。


「テレキネシス……念力だっけ?」


 確か考えるだけで物を動かす能力だったはず。

 姉が引いたヒーリングは名前からして、おそらく回復をするのだろう。


「んじゃ次」


 お互いのカードを確認してから、またルーレットを回す。針が止まった数字は4だった。


「いち、にい、さん、し……えっと、『ゴブリンが現れた。戦闘開始』……戦闘?」

「……え?」


 文字を読み上げて首を傾げると同時に世界が反転して、急に襲ってきた光に目が眩んだ。




「一体なんなんだ?」


 手を傘にして少しづつ瞼を開けると、家に居たはずなのに何故か草原のど真ん中で椅子に座っていた。

 正面に座っていた姉も光に慣れたのか、周りを見て口をポカーンと開けている。


「どういう事?」


 ちょっと現状に頭が追い付かない。というか現実か?

 姉は俺の質問に答えず唖然としていたが、暫くして口を開いた。


「……机と椅子はうちのね」

「最初に気にするのがそれか……」


 今のはボケたのか? 確かに座っている状態から、突然椅子がなくなれば後ろにコケル。優しい仕様なのはちょっと嬉しい。


「それじゃ、純、準備して」


 そう言って姉が椅子から立ち上がる。


「何の?」

「マス目に戦闘って書いてあるから、戦いの準備に決まってるじゃん」

「あーうん。まあ、そうなんだけど……」


 適応力が高けぇな!


「それで、どうやって戦う?」


 姉は質問に暫く考えると、右腕を前に突き出した。


「パイロキネシス!」


 声を発するのと同時に開いた右手から炎の玉が現れて、30mぐらい前方に飛んで消滅した。


「ヤバイ……今の見た?」


 予想が当たって嬉しいのか、姉が振り向いて俺に笑みを浮かべる。


「……火事にならなくてよかったと思う」

「そっちにツッコまないで、少しは驚きなよ」

「このゲームにも、姉ちゃんの適応力の高さにも驚いてるよ」

「本当に感情表現が薄いね。まあ、これで戦い方は何となく分かった。純も何か試してみたら?」

「ん、やってみる」


 俺が引いたカードは、『パワー』と『テレキネシス』。

 試しにテレキネシスを試そうと、地面に落ちていた小石を見ながら、浮かべと念じる。

 すると、思っていた通りに小石が宙に浮かんだ。


「これをニュートンに見せたい」


 そして、お前の万有引力は間違ってると嘘を吐きたい。


「ニュートンには見せられないけど、動画は撮るよ」


 スマホを取り出した姉が、浮かんだ小石の動画を撮る。


「それじゃ、その小石を飛ばして」

「分かった」


 確かに石を浮かべるだけじゃ戦えない。飛べと念じると、小石はピッチャーが投げるぐらの速度で飛んで、背の高い草むらに落ちた。


「けっこう速かったね」

「カーブ入れてみたけど曲がった?」

「そこまで見てない」

「そっか……」


 姉と会話しながら何かを忘れている気がする。忘れた何かを考えていたら、石を投げた草木から緑色の生物が現れた。

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