デイブレイク・サイキッカーズ ~超能力姉弟の人生ゲーム~

水野 藍雷

人生ゲーム編

超能力開花

第1話 爺さんの遺産

 初めての方は初めまして。久しぶりの方は音信不通のまま1年過ぎてゴメンなさい‼

 そろそろ復帰して、宇宙船の方の続きを書こうとしたのですが、全然書けなくて、気分転換に1本違う小説を書こうと思って書いてみました。

 リハビリみたいなモノなので、色々とチャレンジしている部分もありますが、気楽に読んでいただけると幸いです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「なんだこれ?」


 先月、亡くなった爺さんの遺品を整理していたら、倉庫の奥から大きな箱が出てきて首を傾げた。

 箱の蓋にはデカデカと『超能力版 人生ゲーム』と書いてある。

 人生ゲームとは、現実の辛さを疑似体験するゲームであり、SFを入れる余地なんてないと思う。

 コイツは版権のゆるい時代の海賊版か何かか? まあ、これはこれでレアだろう。捨てずに取っておくことにした。




「純、ごはんよ」

「あいよ」


 夜まで遺品整理を続けていたら、居間から姉の声が聞こえた。

 作業を切り上げて居間に入ると、テーブルに姉の手料理が並んでいた。

 今日の夕飯は麻婆豆腐。俺は辛口が好きなのだが、逆に姉は辛いのが駄目なので、いつも甘口なのが悲しい。

 一度、中辛で手を打とうと相談したけど、だったら自分で作れと拒否された。俺はそんなに麻婆豆腐が好きというわけでもない。自分で作る面倒を考えた結果、甘口で妥協している。


 ここで自己紹介。

 俺の名前は、『道祖 純』。今年の春、地元の高校に入学したばかりの16歳。

 成績は優秀、背も高くて容姿も良くて、運動神経も抜群……なーんちゃって、全部嘘ピョーン。

 成績、運動神経は普通。容姿も普通。身長は悲しいけど若干低め、まだ16歳だから今後に期待。


 ただし、人生は結構波乱。俺が6歳の時に家族4人で乗っていた車が交通事故に遭い、両親が死んで姉と俺も大怪我をした。

 俺と姉は入院中で居なかったが、葬式の塲では親族会議が行われて、俺たちをどうするかの話し合いが行われた。

 親戚全員、既に子供が居て、新たに2人の子供を養うだけの金も余裕もない。施設に預けようかと相談していると、憐れんだ爺さんが俺たちの里親になることにした。押し付けられたともいう。


 店を畳んで後は悠々自適に生きようと思ったら、まだ小学一年と小学二年の子供を養う羽目になったのだから、爺さんも大変だっただろう。

 だけど、爺さん曰く、若い時に買った株がどんどん上がって、9桁後半まで金が増えたらしい。親戚に知らせたらたかりに来るから内緒だぞと、俺が中学の時にこっそり教えてくれた。

 爺さんは亡くなる直前、最後に俺たちを育てるのは楽しかったと言ってくれた。それを聞いて俺たち姉弟は、ありがとうと泣いた。


「なに、ぼーっとしてるの?」


 姉が俺の顔を見て訝しむように見つめた。


「爺さんの事、思い出していた。ついでに麻婆豆腐を辛くする方法を考えている」

「一味でもかけたら?」

「甘口に一味をかけても口に入れた時が辛くなるだけで、後味の甘さは変わらん」


 この料理は美味いが味音痴なのが、姉の『道祖 雪』。現在、高校二年生。

 姉は俺と違って、成績、容姿共に良い。時々、母の子宮にいる時、俺の成長する分も奪ったんじゃないかと思っている。

 お互いブラコンでもシスコンでもないから、性格はよく知らない。

 ただ、両親が早々に死んで、俺たちは早い段階で自己アイデンティティを確立した。引き取られて1年後には、爺さんの負担をなるべく減らそうと、喧嘩や我儘を言わず、自分の事は自分でやるようになった。

 多分、姉弟というよりも、お互いに生きるためのパートナーみたいな感じだと思っている。姉が俺の事をどう思っているか知らんけど。




「ところで、なにか面白い物でもあった?」

「いくつか金になりそうなのはあったかも?」


 質問に対して適当に答える。

 爺さんは親から継いだ古びたおもちゃ屋を一人で経営していた。婆さんは父を生んだ後で直ぐに死んだから、写真でしか見た事がない。

 爺さんのおもちゃ屋はテレビゲームを扱わず、ソフビ人形、プラモ、ボードゲーム等々、マニア向けなレトロ品しか売ってない店だった。


 ネジ一本から核兵器まで何でもネットで買える時代なので、当然ながら客足などない。それでも、たまにレトロなおもちゃを求めて買いに来る客はいた。

 だけど、爺さんのポリシーか何なのか知らんけど、おもちゃは遊んでこそおもちゃであり、転売目的や鑑賞のために買おうとする客には、断固として売ろうとしなかった。

 なので売上に関してはお察しの通り。株で儲けてなかったら、どうやって生きていくつもりだったのか、死ぬ前に一度聞きたかった。

 ちなみに、店は爺さんが死んだときに閉店して、今日は商品の在庫整理をしていた。


「そういえば、人生ゲームがあった」


 食事の片付けも終えて一息ついた時に、人生ゲームの事を思い出して姉に話した。


「懐かしいね。平成版?」


 姉もこんなおもちゃ屋の娘だから、それなりにレトロなおもちゃについて詳しい。


「超能力版」

「ずいぶんとサイバーチックな人生ゲームね、そんなのあったかな?」

「多分海賊版じゃね?」

「あの爺さんが海賊版なんて扱うかしら……」


 言われてみれば姉の言う通り。経営に関しては無知な爺さんでも、一応おもちゃ屋としての鑑定眼は持っていた。

 そんな爺さんが海賊版なんてパクリ品を扱うとは思えない。いや、もしかしたら海賊版だと気付いて、倉庫に眠らせたのかもしれない。


「中は見た?」

「うんにゃ。早く整理を終わらせたかったから見てない」

「だったら久しぶりに遊ぼうか?」


 姉の提案に口をへの字にして考える。

 そういえば、爺さんが死んでから、俺たち姉弟から笑みが消えた。

 おそらく姉は寂しくなった家に笑いを戻そうと考えたのだろう。


「そうだな。いっちょやるか」


 こうして俺たちは、謎の『超能力版 人生ゲーム』を遊ぶ事にした。

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