第22話「埴輪の幽霊が出る四辻」
正直、埴輪の幽霊なんて聞いたときは、笑ってしまった。「古墳の祟り」だの「幽霊の仕業」だの、そういう話はこれまでも聞いてきたが、まさか土人形が出るとは。霊ってのは人間の霊だからこそ怖いのだ。
土の塊がうろつくなんて、どう考えても恐怖にはほど遠い。
埴輪なんて、どちらかと言えばかわいい造形ではないのか。
古くから全長50メートルほどの前方後円墳があることが知られるこの地区は、田んぼが広がる静かな郊外で、家はまばら。
日没が迫るとあたりは妙に物寂しく、ひびが入り、
「さっさと調べて帰ろう……」
なんて、ぽつりとつぶやきながら歩いていると、どこからか蹄の音がパカラパカラと聞こえてきた。耳を澄ませるが、誰もいない。
まさかまだ農作業に馬を使っているとか? そんなわけないだろう。そんなバカげた自問自答をしていると、またパカ、パカと音が近づいてくる。視線を感じて振り返る。
そして次の瞬間、ほとんど日の沈んだ四辻の薄暗がりに見えた。
それがただの埴輪ならまだしも、人間大の大きさで、妙にリアルというか、ぽっかりと空いた目の穴がこっちを覗き込んでる。口もぽかーんと開いたままで、まるで、
「お前、どこから来た?」
そう聞かれてるような感じがする。
「いやいや、土の人形が何か聞いてくるわけないだろ」
と自分に言い聞かせて、顔を上げたが、今度はポニーサイズの埴輪の馬の声なき
……気のせいだろう。俺はふと我に返って、足早に歩き出した。だが、その馬の埴輪の足音はさっきよりも近くなってきている気がする。
「まずい、これは夢だ、夢に違いない」
そう思いながら、目を閉じて無理やり平静を装ったが、頭の中では埴輪のぼんやりした顔が離れない。
どうやって会社に戻ったのか定かじゃない。
埴輪、確かに怖くはなかったが……、いや、怖かったのか? 間抜け顔ではあったが、ぽかーんとしたあの表情に果てしない虚無を感じたことは素直に認めよう。
社長に報告すると、俺の話を聞き終えた社長はニヤニヤして言った。
「そうか、埴輪に遭ったのか。田中、お前が埴輪と立ち話してるところ、見たかったな」
心なしか社長の目が輝いている気がする。
「次は社長が会いに行ってみてくださいよ……」
「そうしよう」
社長は好奇心を隠さずにそう言った。
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