第16話「エレベーターの壊れたマンション」
ある日、逆木地所にマンションの住民からエレベーター修理の依頼が舞い込んだ。
「数か月前から故障したままで、夜中に勝手に動くのが不気味だ」という苦情だった。
俺が担当することになり、早速そのマンションへと向かった。
エレベーターは築古の建物にありがちな古びたタイプで、確かにどこか薄暗い雰囲気が漂っている。管理会社の報告書を確認したが、原因不明で修理業者も手を焼いているらしい。
仕方なく、住民の不安を少しでも解消するため、エレベーターの監視カメラの映像をチェックすることにした。
録画映像を見始めて数日分をさかのぼっていたが、昼間は特に異常は見当たらなかった。だが、夜中の2時になると異変があった。いつも同じ時刻、そして必ず5階でエレベーターが停止していたのだ。
そこで、不審な動きを見逃さないよう、さらに映像を拡大して確認してみると——
真夜中の2時、エレベーターのドアが開き、中には制服姿の配達員が立っていた。妙に青白い顔色で、大きな段ボールを両手で抱えている。おかしい。配達が深夜2時にあるはずがない。
配達員は静かに5階の廊下へと歩いていき、エレベーターのドアが閉まる。そのまま彼は帰ってくることなく、エレベーターも静まり返った。
そして翌日も、同じ時刻に現れ、5階に止まり、同じように姿を消していく。しかも、彼が抱えている段ボールは、毎回見た目も重さも微妙に異なっているように見えた。
まるで中身が変わっているかのように。
次第に俺は、この配達員がいったい何を「運んでいる」のか、考えることすら憚られるような気分になってきた。
明らかに、普通の人間ではない気配がする。異常者であっても、幽霊であっても、ロクな存在ではない。ワイシャツの中にじっとりと嫌な汗をかいていて、監視カメラ映像の確認は切り上げた。
コーヒーはしばらく飲みたくなかったので、事務所から出て外の自販機に向かう事にした。コーラかライフガードか。強い炭酸と強烈な甘みで脳を溺れさせたかった。
来客用の自動ドア前に、重たげな段ボールの箱を抱えた配達員が突っ立ってる。
俺は不覚にも、身体をこわばらせ足を止めた。
「社長さんに、お届け物です!」
頬を上気させた体格の良い配達員は、人好きのする笑顔で朗らかに言った。
いつもの、逆木不動産に荷物を届けてくれる配達員であったことに、これほど安心したことはない。
外に出る気をそがれた俺は、荷物を抱えて社長に届けに行った。
届けついでに監視カメラについて報告すると、社長は静かに頷いてから、少し不気味な微笑を浮かべて言った。
「夜中に現れる配達員か……、一体何を届けに来てるんだろうね? その段ボールの中身、たぶん君は見ない方がいいよ」
社長が荷物のガムテープに手をかけた。バカバカしいと思いながらも、俺はその中身を知るべきではない気がしてそそくさと退室した。
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