第2話「ガレージが閉まらない家」

 地元の不動産屋で働いているんだが、最近どうも厄介な物件ばかり押し付けられている気がする。

 社長は「田中、お前は肝が据わってるから安心だ」なんて呑気に言うが、俺からすればただ面倒ごとを回されてるだけだろう。だがまあ、金さえもらえればいい。

 そんなわけで、今日もまた厄介な物件を調べに行くことになった。

「ガレージが閉まらない家」という話を聞いた瞬間に予感はしていたが、担当だった新人が「気味悪いです……」と逃げ出してしまったもんで、結局俺が行く羽目になった。


 物件は郊外の一軒家。ガレージ付きで、建物自体は築32年だが綺麗に手入れされている。俺は車から降りてガレージに向かうと、シャッターが微妙に開いたまま止まっていた。外から見ても特に異常はなく、ガレージも古いだけだろうと気楽に構えてシャッターを押し下げてみたが、やけに重い。

「老朽化か?」

 独り言を言いながらさらに力を入れて押し込んでみると、突然、ガシャン! とシャッターが跳ね上がり、俺は思わず手を引っ込めた。まるで、内側から押し返されているような感じだ。

 さすがに気味が悪くなってガレージの中を覗き込むと、ただ古い工具や傷ついたエアロパーツ、煤けたマフラー、その他おそらく改造車の部品が積まれているだけで、誰静まり返ったガレージには誰もいない。

「気のせいだろう」

 とつぶやき、再びシャッターを下ろそうとしたその瞬間――


 突如、けたたましいクラクションの音が轟き、ハイビームが足元を照らした。あたりを見回したが、近くには車など見当たらない。それどころか、ガレージには不気味なほどの静けさが戻っていた。

 脳裏をよぎったのは、前の家主が乗っていたというシーマのことだ。この家にはかつて、車に並々ならぬこだわりを持っていた男が住んでいたと聞く。

 彼の愛車はシーマで、ガレージにはそれを完璧に収めるための改装までしていたらしい。だが、そのシーマも彼の死後すぐに処分され、今ではもう跡形もない。

 もしかして……いや、さすがにそれは考えすぎだ。俺は気を取り直してシャッターを再び押し下げようとしたが、どうにも締まりが悪い。何度か挑戦したが、その度にふっと力が抜け、シャッターは途中で止まってしまう。

 シーマがまだここにあり、俺がその「領域」に無断で足を踏み入れているとでも言わんばかりに、重低音のエンジン音が唸り声を上げ始めた。

「番犬かよ……」

 ぼやきながら、俺はようやくシャッターを下ろすのを諦め、立ち入り禁止の張り紙を貼ってその場を後にした。


 帰社して、社長には「ガレージの修理が必要ですね」とだけ報告したが、あのクラクションの音とシーマの妨害はガレージの修理でどうにかなるとは思えなかった。

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