普通の仕事
売り専を始めた理由は至極単純なことだった。
お金がなかったことと、セックスが好きだったからだ。
一度そのことを店の後輩に行ったら明らかに引かれたし、同期には「あんまりそういうこと言わないほうがいいよ」と有難い助言をもらった。
お金が欲しくて、セックスが好きってそんなに悪いことなんかな。そう思ったが、世間的に正しいのは向こうの方だというのも分かっていたから愛想笑いだけした。
不思議なものだと思う。
みんなお金が好きだしセックスだって誰だってやることだ。
それを仕事にしているだけだし、みんな同じようなものだと思っていた。だけど、おかしいのはおれだけで、みんなは平然とおれの生き様を否定する。
子供の頃からそうだった。
親はみんなと同じことができないおれを好きではないようだった。
「なんでそんなこともできないの」「なんでそんなことをするの」
親はいつもそんな風におれを叱った。
おれはなんで自分が怒られているのかよくわかっていなかった。
初恋は女の子だったと思うけど、別に男の子も好きだった。
中学の時、友達とクラスでタイプの女子をあげつらっていた時、何の気なしに「おれ別に男も行けるけど」と言ったら、「キモい」と言われた。
おれはとっさに冗談だと言った。友達は笑っていた。
その時初めて、おかしいのは自分だけで、みんなは別に同性にそういう感情を抱かないことを知った。
それからおれは、できる限り「普通」でいようと思った。
みんなと同じものを好きだと言い、みんなと同じように生きようとした。
だけど、オナニーをするときにはいつも男の子を想像していた。
高二の夏、彼女が出来た。前々から気になっていた女の子だった。二人で花火大会を見に行って、その後彼女の家でセックスをしようとしたが、おれのちんこは勃たなかった。
一か月後、彼女と別れた。
どうやらおれの性欲は女よりも男に向きやすいらしかった。
自分でも訳が分からなかった。おれは生物学的に男で。女が好きで。でも男のほうにも性欲は向けられて。気持ちいいことは好きで。
だけどみんなはどうやらそうじゃないらしかった。
それに気づいたおれは、地元から逃げるように上京した。
そして、翔也と出会った。
最初に会ったとき、翔也は顔に怪我をしていた。
聞けば、それは親につけられたものだという。逃げるようにして東京に来た。行く当てもない。そんなことを言っていた。
おれは、翔也を、自分と似た境遇の男を、愛せるかもしれないと思った。
しかし今日に至るまで、おれは翔也に性欲は抱いても、愛情を抱いたとは思っていなかった。
これは理屈じゃない。ただ漠然と、一緒に暮らしている男に愛を向けていると自分自身で思っていないだけだ。
おれはゲイじゃない。だけど、ノンケでもない。ならおれはなんなんだ?そう思い続けながら、ただ生きている。
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