変わらない仕事

僕の生業は作家だ。デビュー作は恋愛小説で、その後もぼちぼちと作品を世に出してはいるものの、正直言ってあまり売れてはいなかった。だから作家業は本来副業で、元々は郊外にある大手物流会社の倉庫で正社員として事務仕事をしていた。

だけどある日突然、出社が出来なくなってしまった。

医者にかかると、適応障害だと言われた。

詳しい理由はわからない。毎日変わらない仕事に耐え切れなくなったからとかセールが近づくたびに生産性を上からうるさく言われるからとか、作家業との兼業で心身の調子を崩したからとか、いくらでも理由はつけられる。

結局僕はその仕事を辞めて、家で細々と担当編集に勧められた仕事をしている生活だ。大した金にはならないが、今できるのはこんなものだけだから仕方がない。

ほとんど収入のない僕に代わって、惣吾はこれまでより一層忙しく働き始めた。大手保険会社の営業職。そのエースが僕の恋人だった。

一度だけ、惣吾と働き方について喧嘩したことがある。

「俺が好きでやってるから良いんだよ。それにお前が負い目を感じる必要はない。余計なお世話だ」

そう言われた。

だけど、僕が惣吾の人生の足を引っ張っているのではないかという疑問は拭えなかった。

惣吾は今順当な出世コースに乗っている。

そんな惣吾にいつか誰かがこう言う。

「佐野くんは結婚しないのか?」

そのときもし僕の存在がバレてしまったら?

大手企業の役員には保守的な人間も多い。

「男と一緒に暮らしている」ということはあまり大きな声で言えることではないだろう。

惣吾は毎日楽しそうに働いている。

惣吾の人生の汚点にはなりたくはない。その気を紛らわせるために毎朝の家事を担当している.......と言えば惣吾は怒るだろうなと思う。

僕はあいつに愛されている。

だけど、いくら惣吾が僕を愛しているからと言って、世間の目はそう簡単に変わってくれないというのも事実だった。

今朝見た同性婚訴訟のニュースを思い出す。

もし仮に、同性婚が当たり前にできる社会になったら?同性愛者が当たり前にいて、その人たちが結婚することが当たり前な世界になったら。

きっと今ある苦しみはほんの少しだけ緩和されるのではないだろうか。

そんないつ訪れるか分からないことに思いを馳せ、その無意味さに落胆する。

仕事用のパソコンに向かい、立ち上げる。こういう時は仕事に没頭するに限る。

そうでもしないと今にも叫びだしてしまいそうだった。

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