二日目③

 「す、すごい小学校でしたね」

「そ、そうね」


 そしてその小学校から南の方向へ向かった。由比ガ浜の方向へと。

 整備された美しい街並みだった。街灯がつき始めた。

 僕らの町には残っていない近代的な文化的な風景が残っていた。

 二人で歩きながら、

「良い街ね」

「そうですね」

「私ここに住みたいかも」

「わかります」


 僕らはそのあと、また古書店に寄った。古書店は近代的な古い本屋で新品から中古品まで売っていた。店の外には、安い本も置いてあった。そこで僕は一冊本を買った。二人で帰るときに、


「ねえ、なんで文芸部に入ったの?」

「僕、唯一、没頭してできるのが文章書きなんですよね。だから入りました」

「そうなんだ。でも、下手だよね」

「そうですね。下手なのは自覚あります。でも…」

「でも?」

「下手でも楽しいからやっているんですよ」

「そうなんだ」

「僕の知り合いで、ジャズのラッパを吹いている人がいるんですけど、その人は下手でもいいから色々やってみようよっていうのが口癖で僕もそれと同じく…」

「私さ、なんでも、うまくなきゃいけないなって思っていたの」

「そうなんですね」

「浅香はやりたいことなに?」

「私はね。歌を唄いたい」

「そうなんですね」

「私さ。カラオケで中学生のとき、友達と一緒に歌ったの。でも、下手で恥ずかしかった。そこから歌うのやめちゃった」

「なにが好きなんですか」

「え、えーっと」

「気になる!」

「えーと秘密」


 これはカラオケ連れてかなくては。

 鎌倉にはカラオケ屋があるのか、すぐにスマホで調べて、


「カラオケ、いきましょう!」

「えー」

「行こう」


 二人で徒歩でカラオケ屋へと向かった。そこで、僕は、フルタイムの料金を払った。ドリンクバーを頼み、僕は、ココアを入れた。彼女は、コーラを入れた。


「歌いましょう」


 そして、僕がリクエストしたのはラバー・ソウルというビートルズのアルバムの「ノルウェイの森」である。僕はこの曲のリズムが大好きだったので、英語の歌詞でも難なく歌い切った。


「け、結構、歌上手いのね」

「そうですか」

「私自信なくしそう」

「そんなことないと思います」


 そういって、先輩の曲が流れたそれはハニーワークスの曲である。そう、某怪盗アニメの主題歌である。

 ん? 

 もしかして先輩うまい? 

 圧倒的な歌のうまさに僕は圧倒された。なんといっても、プロ歌手並みなのである。


「上手ですね」

「うれしい」


 僕たちは束の間の夢を見ている。彼女の歌を聴き、僕はその夢から覚めない。


 二人で歌い終えたあと、僕たちは鎌倉の相場でいうと、中間値程度のホテルに泊まった。

「ねえ、紫君」



 

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