『死が二人を抱きしめる』
「……日和、ビーム攻撃だけじゃなくて足場の作成も頼めるか? オレは接近戦を挑みたい」
「いいよっ! まっかせて!!」
「よし、いくぞッ!!」
「うんっ!!」
日和と頷きあった後、オレは駆け出す。
宙に並べられたビットを踏み締めて、空中要塞へ急接近する!
「……よしッ! この距離ならッ!!」
ボスが奏でる厳かで神秘的なBGMが胸を高鳴らせ、いつもよりも脚に、腕に力が入るのを感じる。
けれど、冷静に、いつも通りに……!
「『ハートブレイク』ッ!!」
要塞に備えられた大砲の一つに『ハートブレイク』を放つ。
完璧に当てることができたが、大砲の破壊はできなかった。もしかしたらできない仕様なのかもしれないが。
「あっ、わっくんッ! 逃げてッ!」
「ッ!!」
要塞の壁から刀やら大剣やらの武器が展開され、全てがこちらに向けて切り掛かってくる!
日和が設置してくれたビットを踏みながら後方へと飛ぶ!
「ぐッ……! とッ! ミスった……ッ!!」
完全に避けたと思っていたが、刀の先端がオレの首を掠めていたようで、HPゲージが削られる。
そして、それだけでなく。
日和が後方に設置してくれたビットを踏み損ね、着地も失敗してしまった。
「わっくんッ! 大丈夫ッ!? 首から血が……!」
「大丈夫だよ、日和。これは現実じゃなくてゲームだ。回復薬を飲めば治る」
心配そうな表情で此方を見る日和に、回復薬を飲む姿を見せ、ニッと笑う。
「わ、わかってるけど心配だよぉ……っ!」
「それはありがたいけど、今は敵の方を見ていてくれ! まだ行動パターンも割れていないわけだしッ!」
「う、うん……ッ! わわっ!!」
日和が頷いて前を見るや否や、砲撃の雨が彼女へと降り注いだ。
「あ、危なかったぁー!」
「ッ! 日和、追撃がくるぞッ!」
「へっ!? ッ!!」
間一髪回避した日和だったが、地に落ちた砲弾が人型ロボットに変形して彼女を囲んでいた!
「今行くぞ……ッ! うおっ!? なんだコイツらッ!!」
援護しようと駆け出そうとしたその時だった。オレが踏みしめようとした地面に向かってビームが放たれたのは。
日和の方へ向いていた目線を上空へ向けると、大型のドローンのようなものに囲まれており……
「わっくんッ! 空に浮いている相手ならッ! ヒヨリの方が……!!」
「ああ、そうだけど……場所を入れ替えるのはリスクが高いしッ! このまま戦おうッ!」
攻撃を避けながら会話を交わす。
たしかにヒヨリのビットならこのドローンたちと優勢に戦えそうだが……位置を入れ替えている間にHPを削り切られてしまいそうな勢いの攻撃だ。
このまま対処した方が戦闘不能になるリスクは避けられそうだ。
「ひ、ヒヨリはそれでもいいけどっ! わっくんは戦いづらいんじゃないかなっ!?」
「ははっ、任せろって! 戦闘が早く終わった方が援護に行くってことで! 待ってろよ、ヒヨリッ!!」
「あーーっ! 援護に行くのはヒヨリの方だもんっ!! 待っててねっ! わっくん!!」
軽口を叩いてみたものの、空を飛ぶ相手に対して戦いづらいのはたしかだ。
もう少し地面に降りてくれれば……よし。
「……ッ!!」
どうやらドローンたちの射角はおよそ45度くらいで固定されているようだ……それなら、地に伏せれば!
「コイツだッ!」
狙い通り、殆どのドローンが高度を下げている。
中でも著しく高度を下げている個体が一つ。
「……ッ!」
起き上がり、ビームの雨を避けながら跳躍する。
「でえりゃああああああぁぁッ!」
ドローンを斬りつけ、バク転のような姿勢になりながら更に跳躍して!
「はッ!!」
「『トリニティ・バースト』ッ!!」
ドローンを一台踏み台にし、『トリニティ・バースト』を放つ。
三連撃で三台……いけるか!?
「よし……ッ! だが、まだまだッ!!」
一撃一撃をドローンに当て、撃破する。が、ドローンはあと三台残っている!
「……ッ! ラッキーッ!!」
再びドローンを踏み台にしたところ、その個体を別のドローンのビームが貫いた。
「『グラヴィティ・ダウン』ッ!!」
次はビームを撃った個体に『グラヴィティ・ダウン』を当て、地面に叩きつける。
「はあああああぁぁぁッ!!」
技を当てた勢いで上昇し、最後の一台に刃を突き立て、地面に押し潰すッ!!
「そんな動きできるんだっ!! すっっごいッ! カッコいいよッ! わっくんっ!!」
「……ははっ、それでも日和の方が早かったな」
地面に降り立つと日和が興奮した様子で駆け寄ってくる。
「えへへぇー、でも相性もあるしヒヨリは回復薬使っちゃったし……わっ!?」
「降りてきたッ!?」
宙に浮いていた要塞が地上に降りてきた。
推測するなら、さっきの雑魚を全滅させることがトリガーか?
「それじゃあ遠慮なくいっくよぉーっ! 『一斉照射』ッ!」
「ああ、やろうッ! 『ハートブレイク』ッ!!」
ビットを剣の形に戻した日和が大砲に『一斉照射』を放つ。
オレも負けてらんねぇッ!
「……よしッ! 日和、大砲は破壊できるぞッ! HPも大幅に減ってるッ!」
先ほど『ハートブレイク』をぶつけた大砲をもう一度突いてみたところ、今度は破壊することができた!
ビーム攻撃でダメージを与えられているので、要塞本体ならどこを攻撃してもHPが減るようだが、こうやって装置を破壊することが攻略の鍵なのだろう。
「うんっ! 『グラヴィティ・ダウン』ッ!!」
オレの声を聞き、先ほど『一斉照射』を当てた大砲に『グラヴィティ・ダウン』を放つ日和。
……まだ壊れてないな。
「……えーいっ! 壊れてよーっ!!」
ブンッ! と風を切る音を立てながら剣を振ると、大砲が爆発する。
「やったー! この調子で……」
「日和ッ!」
「おわっとと……ッ! 『ハートブレイク』ッ!!」
要塞から展開された武器による攻撃を避けつつ、日和がハートブレイクを放つ。
……綺麗に当たったな。
「……また浮かぶつもりかッ!」
「わっくん、どうする!? 乗っちゃう!?」
「そうしようッ!」
日和の提案に乗り、浮かびあがろうとする要塞に乗り込む……また先ほどと同じ雑魚を倒すフェーズに移るのならその必要はない気もするが、乗ったパターンも確認しておきたい。
「……うわっ! って、これは距離をとれば問題ないね!」
「そうだな……」
要塞の壁から展開された武器がオレたちを狙っているが、中央部に移動すれば攻撃は届かない……床から武器がニョキっと生えるなんてギミックも今のところはなさそうだ。
「さっきのロボットッ!」
「……! ドローンッ!」
が、大砲の近くに備えられた砲弾がロボットに変形し、どこからか現れたドローンがオレたちを囲む。
「わっくん、今度はヒヨリがドローンを倒すねっ!」
「ああ、頼んだぜッ! ロボットは任せろッ!」
『愛は毒の海のように──』
『アイハドクノウミノヨウニ──』
『愛は毒の海のように──』
『アイハドクノウミノヨウニ──』
「しゃ、喋った!?」
「な、なんか揺れて……うおッ!?」
ドローンとロボットたちが何かを喋った途端に要塞が揺れ……同時に、液体が激しく流れ出る音が聞こえる。
「な、何が起こってるのかな!?」
「わからないッ! 今は敵を倒すことに集中するぞッ!」
「う、うんっ!」
「──ッ! めんどくせぇなッ!」
ロボットの動きは単調だが、数が多く、それに……
「わっくんッ! ドローンのビームがそっちにッ!」
「ああッ!」
ドローンの攻撃対象が此方になることもあり、回避に意識をやらねばならない。
「……ッ! あっ! 日和ッ! ロボットが二体そっちにッ!」
「わかったッ! 大丈夫だよッ! 『一斉照射』ッ!! 『ハートブレイクッ!』」
ビームで一体倒した後、剣を握って『ハートブレイク』を放つ日和。
流石……だがッ!
「日和ッ! 後ろだッ!! まだ砲弾だったヤツがいるッ!」
「ッ! わ、わああああぁぁぁーーっ!!」
「日和ッ!!」
要塞に転がっていた砲弾。まるで背景のようで意識から外れていて。
変形したソイツは日和を掴んで地上へと落ちていった!
「……ッ!?」
日和のHPが急速に減っている……いや、減り続けている。
何事かと地上を見てみると、地面はもうどこにもなく、一面が紫色の液体になっていた。
……『毒の海』。さっきコイツらが言っていたのはそういうことか。
「はぁ、はぁーー……っ! あ、あぶなかったぁー!」
ビットを踏んで戻ってきたであろう日和が大きく息を吐く。そのHPと状態異常は回復していた。
……これ、ビットや飛行スキルを持っていなかったら詰まないか?
地上にいたままならこうはならなかったのか、それともこういう仕様か……
考えても仕方がない。落ちないように気をつけねぇと。
「……あっ、わっくんわっくんっ! あのロボットね! 毒沼に落ちたらすぐ壊れてたよッ!」
「なるほどな、倒すよりも落とした方が早ぇかッ!」
「ドローンは任せてッ! もう攻撃はいかせないからッ! 片付いたら支援するねッ!」
「支援するのはオレだってのッ! ……ははっ」
こんなときでも互いに負けず嫌いで、思わず笑ってしまう。
こういうときは剣で戦うよりも……!
「『巡り行き、気の向くままに包み吹き荒ぶもの。我が手中にて収束し、解き放たんッ! ──
ロボットたちの攻撃を避けつつ整列させ、風魔法を放つッ!
「……どうだッ!」
ロボットたちは一体も残らず毒の海に落ちていく。
「……日和ッ! 待ってろッ!!」
ドローンと戦っている日和の元に向かい、跳躍する。
「てやああああぁぁッ!!」
「ああーっ! 最後の一台っ!!」
そう、残すはあと一台だったので、完全にいいところを取った形となってしまった。
「ははっ、どうしても日和を助けたくてさっ!」
なので、爽やかに笑って誤魔化すことにした。
「えぇーーっ!? それ、本当ーーーっ!? ……でもでも、ヒヨリはわっくんが大好きだから、信じちゃうし嬉しいって思っちゃうんだぁーーっ! えっへへぇーっ!」
「……そっか」
なんだろう、ほんの少しだけ罪悪感が湧いてくるな。コイツってこんなに可愛かったっけ。
「っと! 最後の一台に取っておいた『一斉照射』ッ! いっくよぉーッ!!」
「よし! これで残り4分の1ってところか……ん?」
『一斉照射』が大砲に命中し、壊れたことでHPが大幅に減る。
ラストスパートだなッ!!
なんて思っていたところに紙が大量に降り注ぐ。
「……これって、楽譜?」
「みたいだな……『死が二人を抱きしめる』?」
五線譜に散りばめられた音符。上部にはタイトルが書かれていた。
「……わっくん!」
「……ああッ!」
要塞からギターとドラムが現れ、BGMが更に盛り上がる。
そしてそれと同時にオレたちの頭上に数字が浮かび上がった!
「60……これッ! またカウントダウンだよッ!」
「ああ、終わらせるぞッ! この戦いッ!」
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