『恋人』
「やっぱり、まだ下に続く階段が……」
「最下層……わくわくするねっ!」
天使が開けた大穴を
オレたちは手を繋いでゆっくりと降りていく。
「……そういえば、日和」
「んー?」
「その剣の武器スキルってさ、『ラムダ・レイ』ってやつだろ?」
「そうだねっ! 剣の形からビットになって攻撃してくれるのっ!」
「使ってる時ってSPとかMPは減らないのか?」
今更確認することでもないが、このゲームにはSPとMPが存在し、主に剣技はSPを、魔法はMPを消費する。
SPは攻撃を加えると回復し、MPは回復薬や吸魔などの特殊攻撃でしか回復しない。
コイツが惜しみなく使ってるところを見るに、SP消費ではあると思うのだが……
「SPが減り続けてるよ。けど、ビットのビームが敵に当たったらトントンってくらいっ!」
「やっぱり、そんなもんで済んでんのか。効果の割に低燃費すぎるな……どこで手に入れたんだ、そんな武器」
「あっはは、ネタバレになるよって言ったらやっぱり聞かなくていいって言ったのはわっくんじゃん!」
「それは、そうなんだけどさ……」
ぶっちゃけ、もう聞いてしまいたいくらいには気になっている。このダンジョンも、日和が持っている剣に助けられた面が大きいし……まあ、使い手が強いのは前提としてだが。
「それじゃあね、それじゃあねー、ヒントっ! わっくんはソロダンジョンに行ってるー?」
「……なるほど。たしかに最近は行ってなかったな。けど、噂で聞いたことがある。『三週間くらい突破されていないダンジョンがあった』って」
昔はよくソロダンジョンに潜っており、ある程度は踏破していたのだが……ギルドに入ってからは大人数ダンジョンと模擬戦にばかり入り浸っていたんだよな。
「あーっ、知ってたんだっ!」
「まさかその突破者が日和だとは思わなかったけどな……たしか、そのダンジョンの名前は」
「『力のダンジョン』! そしてこの剣の名前は『ストレングス』だよっ!」
「『力』『ストレングス』……ははっ、たしかに日和はパワーがあるし強いもんなっ!」
権力……は言わずもがな。現実の日和はオレよりも一回り大きいうえに鍛えているようで、単純な力比べでは敵わないだろう。実際この前腕相撲で負けたし。
それに、強さ。コイツは強いからこそ、自分の身に起こった悲劇を話さず一人で抱え込んでいた。強いからこそ、『オレを幸せにする方法』を成し遂げようとした。
「えっへへーっ! もっと褒めてーっ!」
「よしよし、凄いぞ……けど、オレの前では弱いところを見せていいからなー」
「えへへ……っ! うんっ!」
特に褒めようと思って放った言葉ではなかったが、日和はそう受け取ったようで。
差し出された頭をわしゃわしゃと撫でる。
……可愛い。オレの幼馴染が最強に可愛いし最強で可愛い。
「……この階段、結構長いよな! 上層から中層に向かう階段を思い出すぜ!」
「へ? うん、そうだねっ」
意識すればするほどコイツのことが好きになりそうで。いや、それ自体は良いことなんだろうが、つい最近まで距離をとっていた分、歯止めが効かなくなりそうで少し怖い。
そんな気持ちで話題を変えようと……
「ッ!」
「……ッ!」
した瞬間、階段から炎が噴き出して。
「日和ッ!」
「わっく……わあああああぁぁぁっ!!」
空いた穴から何かが飛び出し、日和を鷲掴みにして再び穴へと飛び込んでいく!
一瞬しか見えなかったが、アレは……さっき見た天使か!?
「くそッ! 待てッ!!」
細かい判断は後だ。オレも穴に飛び込んで……!
「……なッ!?」
「…………!」
鷲掴みにされながら落ちていく日和が視界の中心……だったのだが、ソレを隠すようにロボットのような天使の顔が現れて。
前方に構えをとった後、オレ目がけて炎を放出してきた!
「……チッ!」
多少のダメージは覚悟の上で天使の両手に蹴りを入れ、跳び上がって剣を構える。
『炎天使 ミカエル』
『瞬天使 サドキエル』
二体のHPバーと名前が表示される。
落ちながらも、地上はまだまだ見えず……これは、空中戦かッ!
「……日和の方を見ている余裕はない、けどッ!」
サドキエルのHPは減り続けている。つまり、日和もビットで応戦しているということだ。
……オレも負けてらんねぇ!
「いくぞッ!」
ミカエルに斬りかかると向こうも剣の形をした炎で応戦してくる。
「……くっ!」
……が、あくまで剣の形をした炎なので、オレの剣は炎をすり抜けミカエルの胴を切り裂き、オレは炎に包まれる。
「防御を捨てての殴り合いかよッ! 面白えッ!!」
とはいえ、馬鹿正直に戦っているとHPが尽きるのは此方が先になるだろう。
回復薬を飲み、体勢を……
「『ハートブレイ──』くそッ! だめだッ!」
体勢を整えようとするが、やはり落ちながらだとうまく技を放つことができないッ!
「──わっくんッ!!」
「日和ッ!?」
聞こえた声に思わず日和を見ると、此方に向けてビットを飛ばしていた!
「それ、足場に使ってッ!」
「お、おう……っ!」
日和本体はというと、ザフキエルを締め上げてホールドしていた。
……どうしてそうなった?
いや、考えるのはよそう。スッゲー気になるけど後で聞いたらいい。
アイツが勝ちそうならオレも勝つッ!
「フッ! はっ……っ! 『ハートブレイク』ッ!」
オレはビットを踏んで、踏んで、踏んでッ!
ミカエルの頭上から『ハートブレイク』を放つ!
「……ッ!」
「くらええええぇぇーーッ!」
剣先を脳天に当て、貫くように腕を前方に向け続ける。
頭部の一部が砕ける音が聞こえるが、抜けないように更に刃を押し込んで!
日和たちを追い越していつの間にやら近づいていた地面で押し潰すッ!
「とおりゃああああッ!!」
気合の入った日和の声が響くとともに、サドキエルが押し潰される。
「……ッ! 流石にダメージくらっちまうかッ!」
「んぅッ! ギリギリセーフッ!」
着地の衝撃を受けるのはオレたち例外ではなく。減ったHPを回復薬で補給する。
「……」
飛び散る二体の天使の破片。やはりロボットのようで歯車やら何かの線やらネジやらが宙を舞って──
「……あっ!」
──ソレら全てが宙に集まり、形を成していく。
光に包まれる部品たち……そして。
「……うお」
「すっごい……!」
現れたのは機械仕掛けの空中要塞とも言える代物。
回る歯車や大砲、巨大なラッパなどの楽器が特徴的だ。
「これは……テンション上がるな」
「うんうん、こういうのもアリだよねッ!」
このゲームには基本的に環境音とSEしか存在しない、のだが……
まさか、ボスがBGMを演奏するとはな。
ラッパやヴァイオリン等の音色が奏でられる中、ボスの名前とHPバーが表示される。
『No.VI-恋人』
……コレが。きっとコレが。
このダンジョンの最終決戦だッ!
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