ダンジョン突破と──
「──くそッ! ダメージがなかなか通らないなッ!」
楽器に攻撃しても弾かれ、要塞本体を攻撃してもHPの減り具合が微量だ。
「『ハートブレイク』ッ! ……わっくんっ! 最後の大砲、壊したよッ!」
「ナイスだ日和ッ! けど、まだ足んねぇなッ!」
残り時間は25秒、敵の残りHPは8分の1程度……大砲を壊してようやくこの数値に至ったことを考えると、時間内に倒すことは絶望的だと言えるだろう。
……要塞の装置、カウントダウンが始まるまで温存しておくべきだったのか?
いや、今考えても無駄なことだ。
「わ、わっくんッ!?」
「……ッ!」
オレは中央部から外部へと移動する。
今まで近づかないようにしていたのは、要塞の壁から武器が展開されるからだったが……今はソレが狙いだ。
「あっ、わかった! あの武器を壊そうとしているんだねっ!!」
「ああッ! 日和もデカい攻撃頼むぜッ!」
此方に向かって斬りかかってくる剣や刀たち。
ソレらを避け、剣の腹で受け止めて、弾くッ!!
「いくぜッ! 『ハートブレイク』ッ!!」
完璧な剣技を刀に当てると、その剣身が音を立てて砕けた!
HPは……要塞本体を攻撃するよりは大きなダメージを与えられたようだ。
「間に合うか微妙だけど……やるぞ、一発クリアッ!」
「うんッ! 『一斉照射』ッ!!」
ここまでくれば、たとえ負けたとしてももう一度やり直せばクリアできるだろう。
けど、オレはコイツと。日和と一発でこのボスをクリアできたという想い出が欲しい。
ここまで来て、一度たりとも負けたくないッ!!
「はあぁぁぁッ!! 『グラヴィティ・ダウン』ッ!!!」
「いっくよッ! 『グラヴィティ・ダウン』ッ!!」
「『トリニティ・バースト』ッ!」
「……ッ! 『ハートブレイク』ッ!」
壊れていく武器。猛攻が収まってもいいはずだが、その気配はない。次から次へと武器が出てきて俺たちの
が、そんなものに屈するオレたちではない。
攻撃を避けて、剣技を叩き込む!
「くっそ、間に合うか……!? 『ハートブレイク』ッ! ──ぐッ!!」
「わっくんッ!!」
オレが放った『ハートブレイク』は完璧に決まる……が、どこからか飛んできた斧に右腕を切断されてしまった!
「ま、マズいな……このままだと剣技のダメージが出ないッ!」
「わ、わっくん、大丈夫……ッ!?」
攻撃を続けながらも、心配そうな声で日和が言う……駆け寄ってこなくて少し安心したし、寂しいような気もする。
「日和ッ! 『一斉照射』はッ!?」
「カウント内には溜まらないよ! 今使える剣技は『グラヴィティ・ダウン』と『ハートブレイク』だけッ!」
時間は残り10秒……クソ! あと少しだってのに!
……待てよ、日和の『一斉照射』のリキャストが溜まっていないのなら!
「日和ッ! 武器を交換しようッ!」
「へっ!? わ、わかったッ!!」
言うが早いか日和に向かって剣を投げる。
彼女もすぐに反応してくれて、『力の剣』を受け取った。
「よし、いくぞ……ッ! 『ラムダ・レイ』ッ!」
「『グラヴィティ・ダウン』ッ! ……あれっ!? いつもよりダメージが大きいかもッ!」
オレが使っていた剣は武器スキルが無い代わりに攻撃力を上げるパッシブ効果を持っている。今の状況にはうってつけの武器だ!
……なんて、説明している場合じゃないッ!
「『一斉照射』ッ!!」
「『ハートブレイク』ッ!!」
『ハートブレイク』で斧を破壊する日和──の背後を狙う大剣にビームを照射する。
……ビットを操るってこんな感じなのか。思いの外楽しいな。
「……や、やったっ!」
「あっぶねぇぇーーッ!!」
頭上に浮かぶ数字は1。敵のHPは0。
本当にギリギリ間に合ったようだ。
「おっとっと!」
「……くッ!」
要塞が盛大なファンファーレを奏でながら壁へと衝突する。
バランスを崩す日和を支え、衝撃を殺す。
「あ、ありがとっ、わっくん!」
「気にするな……って、なんだ?」
要塞が衝突し開いた穴には宝箱が置いてあって。
ソレを開けると更に二つの小箱が中に入っていた。
「……これ、指輪だっ!」
言うが否や小箱を手に取って開ける日和。
オレも小箱を取ろうとするが、剣を握っている左腕しかないので取れない……仕方ない。もう戦闘もないだろうし、武器を解除して──
「わっくん、着けてあげるねっ! えっへへ!」
「お、おう……って、薬指!」
「そりゃあそうだよーっ! ヒヨリはわっくんのお嫁さんってことは、わっくんはヒヨリのお婿さんなんだもんっ!!」
左手の薬指に指輪が通る。
コイツがお嫁さんお嫁さん連呼してたから麻痺してたが、そうだよな。結婚する仲ってことだもんな……
「わっくんわっくん、ヒヨリにも着けてっ!!」
「ん……」
装備を解除し、ヒヨリの左手の薬指に指輪を通す……なんか、すっごい恥ずかしいな。
「えっへへ、お揃いの指輪だねっ!」
「ああ、そうだな。嬉しいよ」
日和の笑顔があまりにも眩しくて、思わず自分の左手に目線が移る。
この指輪の名前は『ザ・ラヴァーズ0000001』。効果は『即死無効』と『同じ名前の指輪を持っている相手とパーティを組んでいる時にHPが持続回復する』ものらしい……これはこれからのダンジョン攻略も日和と行くことになりそうだな。末長く。
「あっ、わっくん照れてるーっ! ……照れてるんだよね? 嫌がってるんじゃないよねっ!?」
「はは、そうだな。照れているだけだよ。帰ろっか、オレたちのギルドに」
「うんっ!!」
浮かぶ『Dungeon Clear!』の文字と、不安そうな日和の顔。
ちゃんと確認できるようになったんだなぁなんて笑いながら、『街へ戻る』ボタンを押す。
……ああ、楽しかったなぁ。
「──というわけで、『未知のダンジョン』改め、『恋人のダンジョン』、突破してきた!」
「ああ、おめでとう、マトヤ、デイ君」
「お前らならきっとクリアすると思ってたぜ! デイ、ようこそ! 『セイントクロス』へ!」
「な、なんかギルド加入会が結婚発表会みたいになってるっす!」
「いや、そんなつもりは……」
「……えっへへ」
左手を胸の前に。指輪を見せながら突破宣言をしたため、見ようによってはそう見えるかもしれない。
今ギルドにいるのは、クロスさん、セイントさん、そしてラチェルさんに……我関せずといった様子で鏡に映る自分の姿をウットリと見つめているフィロエリナさんだ。やっぱりいつも鏡見てんなこの人。
「ほら、フィロエリナも祝いの言葉をだな……」
セイントさんの言葉にふわっふわのロリータ少女が顔だけを声の方に向け、つけまつげバッサバサの目を見開く。
「ウルセーハゲ、ジゴクニオチロ」
「いや、そこをなんとか」
「ジゴクニオチロ、サヨナラー」
それだけ言って再び鏡に映る自分の姿を見つめるフィロエリナさんと、崩れ落ちるセイントさん……哀れ、ギルド長。
「……!?」
「ああ、フィロエリナさんは外国人で今は日本語勉強中なんだけど、教材がアレなのかめっちゃくちゃ口が悪いんだ」
驚いた表情で此方を見つめる日和……まあ、オレもそうだったから気持ちはわかる。
「うおおおおお! いつになったら心を開いてくれるんだッ! フィロエリナーーッ!!」
「ダマレハゲ」
「……ふふっ」
二人の会話……会話? を見て日和が笑う。
「わかる。面白いよねあの子、だから誘ったんだけど」
「自分がこのギルドにいるの、なんだか不安になってきたっす……アタシ、普通すぎる!」
「うん、そうだね」
「え?」
「え?」
「……ふふっ! わっくんわっくん、楽しいね!」
ギルドメンバー達の会話を聞いて、日和がニコニコと此方に笑いかけてくる。
「ああ、此処もお前の居場所になる」
コイツと再会したときのことを思えば、信じられない話だ。
懐かしくて、けれどソレよりも怖さが勝って、遠ざけたくて。
……今はこんなにも、日和に幸せになってほしい。日和と幸せになりたい。
考えれば考えるほど面白くて。
オレは会心の笑みを浮かべた。
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