〜求め焦がれた幼馴染と未知のダンジョン攻略!

 ヒヨリには、好きな人がいますっ!

 お母さんと、お父さんと〜……幼馴染のわっくんです! あっ、もちろんわっくんの家族もっ!


 わっくんは凄いんです! 一緒にいると楽しくてー、色んなことができてー、そしてー!

 すっごく優しいっ!


 ヒヨリが怪我をしたら心配して駆け寄って来てくれるし、ずっと一緒に居たいって言ってくれました!

 ……ヒヨリがお嫁さんだったら嬉しいとも!


 大きくなってくると照れ隠しすることが増えてきたけれど、わっくんの本当の気持ちはわかっていますっ! えへへっ!


 ──そんなわっくんは、村を出て行って。

 二度と帰ってきませんでした。



「──あっ、届いてるっ!」


 玄関前に置かれた箱を開けると、そこには大人気で入手困難なVR機器がありました。

 キラキラと光るラッピングはまるでプレゼントのよう!

 ……まあ、開発会社に圧をかけて手に入れたものなんだけど。


「えへっ、これがわっくんが今ハマってるゲームかぁ!」


 VR機器を覆うように入っていた長〜いお手紙はチラッとだけ読んで包装を開けていきます。

 MINEでお義母さんが話してたゲームはもう中に入っているみたい。楽しみだなぁ〜!


「──わっ! すっごいっ!」


 スイッチを入れてゲームを選ぶと、視界が一気に変わって。

 都会ともこの村とも違う、不思議ファンタジーな光景に思わず声が漏れました。


「見たこともない植物に、レンガの建物……これが、今わっくんが居る世界!」

「S、O、O……縮めるとカッコいいけど、やっぱり雑な名前〜! あははっ」


 わっくんがこの世界にいると考えると全部が面白く感じて思わず笑ってしまいます。

 ……早くわっくんに会いたいけど、始めたばっかりで弱かったら一緒に戦っても面白くないよね。よぉし!



「──ふぅ。勝てたぁ……これで今出ているソロダンジョンは終わったかなっ!」


 最初のうちは戸惑っていたけど、頭がゲームに慣れてきたら動きたいように動けるようになってきて!

 気づいたら一人でいけるダンジョンを全部クリアしていました!


「……ん?」


 そろそろわっくんと一緒に戦えるかなぁーなんて思っていたら、ダンジョンメニューに新しい項目が増えていて。


「……『未知のダンジョン』? ってことは、まだ攻略されていないってことだよね。いつからあるんだろ?」

「……二週間前!? 結構経ってるっ!」


 ダンジョン発見日を確認すると、その日付は約二週間前! 今大人気のオンラインゲームでそんなことがあるんだ、なんて思いながら様子見の気持ちで足を運んでみることにしました。



「──凄かったぁ」


 あれから三日後、ヒヨリはようやくそのダンジョンをクリアしていました。

 ボスの演出が凄くて、凄くて……!

 わっくんと語り合いたかったな、なんて寂しくて虚しい気持ちになってしまいました。

 ……ううん、その日はきっとくるよねっ! 近いうちにっ!


「……わっ、クリア報酬は剣なんだ」


 部屋の中央に刺さった金ピカの装飾が凄い剣を手に取ると、その剣はバラバラになって宙を飛んで……

 もう動かなくなったボスへとビームを発射して粉々にしてしまいました!


「……わあ!」


 その威力に驚いていると、バラバラになった板が剣の形に戻ってヒヨリの手の中に握られていました。


「これならわっくんと一緒に戦えそうっ!」

「……よぉし、そうと決まればっ!」


 わっくんを捜さないと、ね。



「──せっかく大きくなったこの事業、潰されたくないですよね。こちらの些細な要求を飲むだけでその心配はなくなるんですけど」


 電話の相手に丁寧に説明するけれど、なかなか『はい』と言ってはくれません。


『そうは言っても、個人情報が……あ、はい。代わります』

「……はぁ」


 どうやら電話の相手が交代したようです。また同じ説明をしなくちゃいけないのかなぁ、なんて思わずため息が出てしまいます。


『……話は聞いていたよ。親羽峰おやばみね村の村長さんの願いなら、聞いてあげようじゃないか』


 電話越しだから、というのを考えてもくぐもった、けれどそこまで聞き取りづらくない声で電話相手は言いました。


「本当ですか? って、なんか馴れ馴れしくないですか?」

『ああ、本当さ。それにもう一つ、こちらから良い提案がある。馴れ馴れしいのは大目に見てもらえないかな』

「提案……?」

『ああ、キミと幼馴染君の再会を祝うのに相応しいダンジョンの提案さ……』



「──あっ、わっくん、居たっ! えっへへ、雰囲気がわっくんっぽいかも!」


 建物の影からジッとわっくんを見つめます。

 姿は想い出のソレとは違うけれど、言われてみればそうとしか思えなくなってきて。


「……」


 今すぐ抱きしめに行きたいけれど、そういうわけにもいきません。まずはあの『ダンジョン』が話題になるまで待って、それまでにヒヨリはドラマチックな再会をする準備をしなければいけないからです!



「──今日はこの時間にログイン」


「──ギルドメンバーのあの人はこの時間……」


「──今日はこの時間……だいたいこの時間だね。あっ、わっくんもあのダンジョン、気になってるっ!」


「──そろそろ、行こうかな」


 わっくんが他の人とダンジョンに行かないとも限りません。そうなったらサプライズ計画は台無しです!


「……」


 運営に復活してもらったバグを使ってギルドの中に……よしっ、入れた!

 ありがとうエルフの人っ!



「── ふふ。あっはは!」


 話の流れで始まった模擬戦。

 本当に、心の底から楽しくて。つい笑ってしまいます!


「笑ってられなくしてやるよッ!」

「……うっ!」


 でも、わっくんは凄い気迫でこちらに切り掛かってきます。

 うんうん、勝負に真剣なその姿、カッコいいなぁ!

 なんて見惚れながらも攻撃を受け止めるつもりでしたが、わっくんの剣技に怯まされてしまいました!


「……いくぞ! 『ハートブレイク』!!」


 動けなくなったヒヨリの頭にわっくんが渾身の一撃をいれようとします……けど、きっと大丈夫! まだ遊べるはずっ!


「いっけええぇぇぇッ!」

「くっ……!」


 鋭いヒット音が場内に響きます。

 ヒヨリはすぐにHPゲージを確認して……


 ビックリしました。


「そんな……ミリ残ってるっす!」

「それだけじゃねぇ。あれは……」

「ああ、またもや見たこともない……」


 うるさい観客たちの声に思わず唇の内側を噛んでしまいました。

 ここまでHPを削られるなんて予想外だったから。


「武器スキル……『ラムダ・レイ』!!」

「あれは……ビット!?」


 咄嗟に顔の前に板を展開したけれど、この剣を入手していなかったらヒヨリはきっと負けていました。

 ……すごい、凄いよわっくん!


「な……!?」


 ついテンションが上がってしまって全部の板でわっくんにビームを放ちました!


 わっくんは華麗に避けようとするけれど、慣れない攻撃に何度か当たってしまってて。


「なんなんだよこれ……くっ! うおおおおぉぉぉぉ!!」


 それでもだんだんと回避精度を上げてきて、ヒヨリへと距離を詰めてきました!


「……!」

「あと一撃を与えさえすればっ!」


 ビームの雨を潜り抜け、わっくんが目の前まで迫ってきて。


「……えへ」

「なっ!?」


 ヒヨリはわっくんを抱きしめました。

 勝負に勝とうと全力で挑んでくるその姿が懐かしくて、カッコよくて、愛おしくて……!


「なにを……! あっ!?」


 ビームには巻き込まれてしまうけど、そんなの関係ありません。

 ヒヨリには、わっくんを抱きしめる以外の選択肢なんてありませんでしたから!



「──それじゃ、次の層に進んで〜、どんどん進も〜! ……って、言いたいところなんだけど」

「どうした……ん、もしかしてそろそろオチる時間か?」


 時刻を確認すると、午後9時30分になっていました。


「うん、そうなんだぁ。ご飯も食べなきゃだしお風呂も入らなきゃだし〜……10時には寝なさいって言われてるの」

「ははっ、権限のある村長になってもその辺の家みたいな決まりはあるんだな」

「ん、まぁね〜」


 名残惜しいけど、わっくんと同じくらい大切なお母さんたちとの決まり事だから。


「……? ま、そういうことならとっとと中層を踏んで終わろうぜ」

「……うん、寂しいけど、また明日ね!」

「また明日……はいはい、また明日な!」


 ……また明日。

 わっくんが、また明日って言ってくれたっ!

 昔みたいに、また明日ってっ! ……えへへっ!


「……ん。えっへへ! また明日ね〜っ!」


 やけに長い階段を下り終えた後、ヒヨリは手を振りながらログアウトボタンを押します。


「……ふぅ」

「……わっくん。わっくんわっくんわっくんわっくんっ!」

「カッコよかったぁ〜っ! えっへへ、幸せだったぁ〜っ!!」


 どさくさ紛れにチューまでしちゃった! えっへへ!

 ……あのとき、わっくんは『日和がいる村からは出たくなかった』って言ってくれた。

 ……ヒヨリは信じるよ。

 わっくんはヒヨリといることが幸せなんだって。だからこの村に帰ってきた方が幸せなんだって。

 ……怪しいなんて思ってしまったことなんて、忘れるよ。


「……ふわぁ」


 お風呂に入って、カップラーメンを食べて、そしてもちろん歯も磨いて、寝る準備はバッチリです。


「──おやすみなさい」


 両手を合わせて挨拶します。

 いつものように、おやすみの返事は返ってきません。


「…………」


 そして、布団に潜り込んで、うずくまって。


 …………ね、わっくん? ヒヨリたち、幸せになれるよね?

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