中層へ
夢を見た。日和と楽しく遊んでいた小五の頃の。
そりゃそうか。昨日、あんなに衝撃的な再会をしたんだもんな。アイツの夢くらい見るだろう。
──カブトムシ、大きさでは負けたけど、捕まえた数ではオレの方が勝ったんだっけ。
……いや、だからなんだって話だよな。
「神田、おはよう」
今が授業中だってことに比べたら些細なことだろ。
眼鏡をかけた筋肉隆々スポーツマン数学教師のスマイルが眩しく、圧がすごい……が、昨日の日和の圧に比べたらまだマシだろうか。
「じゃあ、神田にはこの問題を解いて──」
「x=5,y=3,z=4です」
「……なんで合ってるんだよ!」
しれっと黒板を見て問題を確認したからだ……なんて言えたらよかったが、視界に映ったクラスメイトが指で密かに答えを教えてくれたからだ。後でお礼を言わないとな。
「──いいっていいって。ところで我がバスケ部に」
「お前……それが狙いか」
「冗談だって! にしても珍しいな。倭が授業中に寝るなんて!」
「まあ、昨日は寝つけなくて……」
ゲーム上とはいえ日和と再会したことで村のことを思い出して。グッスリ眠るというわけにはいかなかったのだ。
「そっか……そういうときは身体を動かしてみるのはどうだ? あっ、これは勧誘とは関係なくてだな」
「ははっ、気を遣ってくれることは伝わってるよ、ありがとう。そうだな、リアルで身体を動かすのもいいかもしれない……」
昔は毎日のように外で運動していて、毎日ぐっすりと眠れていたな。この後ゲームすることを考えると疲れすぎるのは考えものだが、今日は走って帰るか……
「おっ、それならこの後1on1なんてどうだ? 今日は部活も休みなんだ」
「結局は
「いいってことよ! 別に言いがかりじゃないし!」
「コイツ……」
まあ、これはウィンウィンというものだろうと自分に言い聞かせて、バスケットコートへと向かう。
「──思ったより熱中してしまったな」
家へと帰り水分補給をした後、いつものように自室でゴーグルを装着する。
『倭! やっぱりお前はバスケ部に……いや、百歩譲ってそうじゃなくてもいいっ! 運動部に入るべきだって!』
静寂に包まれ、真っ黒な画面を見つめていると、先ほど敦己からかけられた言葉が蘇る。
……まあ、いつものように彼女からの誘いの言葉は断ったわけだが。
「ははっ、それはそれで面白そうだけど……やっぱりオレはこっちだな……うおっ!?」
いつものように異世界チックな光景がオレを迎え入れ、独り言が漏れた。
と、同時に。視界が揺れる。
「わっくんおっそーーーーいっ!! いつもより1時間と20分くらい遅いよっ!」
どうやら後ろから抱きつかれたようだ。誰から? というのは最早考える必要すらない。
「日和……ずっと待ってたのか!?」
「うんっ! そろそろわっくんが来る時間だぁーって、ログインポイントで待ってたの! そしたらぜーんぜん帰ってこなくて……とっても不安になっちゃったんだよ?」
「なんでオレがログインする時間を……いや、結果的に待たせることになったのは悪かったけどさ、こっちにも色々事情があるんだよ!」
明日って言ったけれど具体的に
「事情〜? あー! もしかしてわっくん、居残りでもさせられたのかな〜? や、でも、わっくんは頭良いからなぁ……あっ」
「女の子と遊んでたりしてた?」
「……ほら、いくぞ、ダンジョン攻略」
中学生の頃に比べれば成績はそこまででもない、なんてツッコミそうになったが、その後に続く言葉と近づく日和の顔に背筋が凍る。
……まあ、ここでたじろいだりしたら余計な刺激を与えることになるのは目に見えているので、強気な心でスルーするのだが。
「あーっ! 誤魔化したー! でもいいもんっ! 今からはヒヨリがわっくんとずっと一緒なんだもんっ!!」
「はいはい、一緒だな」
「うんっ、えへへっ!」
いつものようにギルドに顔を出してから……と思ったが、このままだと確実に日和が侵入してくるのでダンジョンへと向かう。
「──昨日はじっくり見る余裕がなかったけど、この層、なんか天井が高くないか?」
「うん、ヒヨリもそう思った!」
カツコツと音を立て、ダンジョンを歩く。
このゲームではバーなどの一部スポットを除いてBGMが流れておらず、環境音のみが世界を彩っている。
賛否分かれる仕様ではあるが、オレは『本当に異世界を探検している感』が味わえるから好きだ。
「上層とは打って変わってモンスターがいねぇな」
カツリコツリ。ダンジョンに響く二人分の足音が、オレたちが二人っきりであることを否が応でも伝えてくる。
……昨日は動揺しっぱなしであまり意識がいかなかったが、この事実に胸を締め付けられる。
昔はこうやって二人でよく探検に出かけていたな……日和に引くようになってからは二人っきりになるのを避けようとしてたけど。
「うん、もしかしたら謎解き系のギミックかもしれないね……って、わわっ!?」
「おぉっ!?」
──ヒュン!
突如ビットたちが上空へと飛び回り、一点へとビームを発射した。
「……おわ」
「おっきいクモだーっ!!」
焼け焦げた地点から何かがポトリと落ちる。
そう、それは人間の何倍もあろうかという大蜘蛛だった。
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