小五の想い出
「わっくんっ! 見て見て! おっきいカブトムシ見つけたよっ!」
「おっ、本当だ! くっそー! 負けてらんねー!」
「えへへへっ! ヒヨリも負けたくないもんね〜っ!」
「オレはその十倍負けたくないっ!」
「あ〜〜っ! ズルいズルいっ! じゃあヒヨリはその百倍だもんっ!」
「ならオレはその千倍っ!」
負けず嫌いなオレたちは、相手よりも大きいカブトムシを探し続け、山の探索を続けていた。
「──いったーい!」
「大丈夫か日和!?」
日和の痛がる声を聞き、慌てて駆け寄る。
どうやら木に空いた隙間に指を突っ込んで怪我をしてしまったようだ。
「ううん、大丈夫じゃない……なでなでしてくれたら元気になるかもだけど」
「だいぶ余裕があるよな? でも、わかった。痛いの痛いの飛んでけー! なんてな」
隙間に指を突っ込んだままの日和の頭を撫でながら呪文を唱える……いや、そんな大層なもんじゃないけれど。
「えっへへー! 元気元気っ! すっごく元気になっちゃったー!」
「ははっ、そりゃあよかった!」
「それにー……にひひっ! じゃーんっ!!」
「うおーっ! でっけーカブトムシ!! こりゃあこの山のヌシだぜっ!」
日和が木の隙間から引っこ抜いたのは8センチはあろうかという巨大なカブトムシだった。
……一瞬、ゴキブリだったらどうしようという不安が過ったが、日和は別に平気なんだよな。うん、日和は。
「えっへへー! おっきいカブトムシを捕まえる勝負はヒヨリの勝ちかなぁ!?」
勝ち誇るように満面の笑みを浮かべる日和。健康的な小麦色の肌でサラサラ黒髪の美少女がカブトムシを持って笑っているこの光景が、何よりも美しいものなんじゃないかと思う。
「ああ。ああ、そうだ……っておい!」
……が、カブトムシを持つ指先から血が流れているのに気づいて、日和の手をソッと握る。
「ひゃっ!?」
「血っ! 血が出てるから、ソイツはカゴにしまって今日はもう帰ろう!」
「えー、まだまだ遊びたいよぉ! ……あ、そうだ! わっくん、さっきの『痛いの痛いの飛んでけー!』ってやつ、もう一回やってよ! そしたら──」
「それじゃ治んないだろ! 血が出たところから身体に悪い菌とかがいっぱい入ってくるんだぞっ!」
良いことを思いついた、というようにニヤリと笑う日和にほんの少し強めに言葉を放つ。
「そ、そんなに強く言わなくてもいいじゃん……!」
「日和に何かあったら嫌だからだろ!? オレはもっと日和と遊びたいっ! これから先も、大人になってからもずっと!」
「わっくん……うん、ごめんね」
「……帰ろう」
「うんっ!」
──温かい手を取って山を降りて。
日和の家に帰り着いた。
「わっくんわっくん! せっかくだからウチで涼んでいってよ! 大きさだったらヒヨリが勝ってるけど、数だったらわっくんが勝ってるかもだよっ!」
「こら、ひー! まずは治療してからでしょっ! ……ごめんね倭くん、いつものことだけど、この子、元気すぎるわよね」
オレたちの声が聞こえたのか、出迎えてくれた日和ママに謝られる……が、そんな必要はない。
「そこが日和の良いところですからっ! 元気すぎて怪我しないように守ります! ……えっと、今回はごめんなさいですけど」
「そうだぞー! そこがヒヨリのいいところなんだぞー!」
「こーら、調子に乗らないの! ……ふふ、それは頼もしいわね。よかったわね、ひー。頼りになる旦那さんが居てくれて。なーんてね!」
「日和ママまで言い出した……別にいいですけど」
「えへへっ! 旦那さーんっ!」
都会の女子が夏休みに遊びに来ることもあるが、虫が嫌いだからといって虫取りには付き合ってくれない。肌が焼けるからと言って川遊びもしようとしない。
そんな奴らの十倍、百倍、千倍……いや、比べるまでもないくらい日和は最高の仲間だ!
今日も明日も、一緒に遊べたらいいなっ!
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