結成
「……あ、そうだ。模擬戦の前に自己紹介をしましょう。ワタシはデイって言います」
「……今? オレはマトヤ」
「マトヤ……マトヤマトヤ。ふふっ、よろしくお願いしますねっ!」
「……今更自己紹介なんて、アタシ、完全にバカにされてるっす」
フィールドに立ち、剣を構えて向かい合う。
緊迫した状況だったのがほんの少しだけ気が緩む。
……いけないいけない。この女性が速攻で仕掛けてくるタイプならこういう油断が命取りだ。
「──では、模擬戦開始!」
「──フッ!」
「──ッ!! それはもう見たッ!」
セイントさんの合図と同時にデイさんが仕掛けてくる。
剣技『ハートブレイク』。先ほどラチェルさんを一撃で屠った技だ。
こちらを貫こうとする剣先を弾き、今度はオレから彼女の胸元に『ハートブレイク』を放つ。
「……ふふっ!」
「……なっ!」
オレのように剣で弾くのではなく鎧で受け止めた。
『ハートブレイク』は決闘で必須と言っていいほどのスキルで、その性能はダメージに必ずクリティカル処理がされるというものだ。
それに加えて、このゲームのダメージ処理は武器を当てる角度、当てる場所、重心のかかり具合等で補正がかかり、完璧に当てた場合と平均的な当て方をした場合の差異が3倍近くある。
このゲームのクリティカル倍率は2倍。よって、完璧に当てたこの技はプレイヤーにかなりの大ダメージを与えるのだ。
ラチェルさんのような敏捷振り低HPビルドだと一撃で試合が決してしまうほどの。
そんなこの技の対処法は『当たらないこと』だと言われている。
どんな当たり方でもクリティカルで2倍のダメージを受けるのだ。模擬戦では回復薬を使えないため、避けたり弾いたりしてダメージそのものを発生させないことが重要である。
にも関わらず。
このデイという女性はオレの『ハートブレイク』を鎧の胸部で受け止めて。
そのHPバーは1ミリも減っていなかったのだ。
いや、それだけじゃない。
「剣が……動かせないッ!!」
「あら? ハマっちゃいましたか? ……はぁっ!!」
「チッ!!」
デイさんの鎧の胸部に剣先が沈み、動かそうにも動かせない。必死に抜こうとするのは逆効果だろう。
なんて考えていると追撃が飛んでくる!
オレは鞘を握る手を離し、咄嗟にガントレットで攻撃を受け止める。
彼女が放ったのは、剣技『グラビティ・ダウン』。剣刃ではなく剣身を振り下ろす追撃技だ。
「うふふっ、ダメージが入っちゃいましたね!」
「まだまだッ!」
「……あら、抜けちゃった。もう少しだったのに」
「……なっ!」
冷静に剣を引っ張り、デイの鎧から引き摺り出し、距離を取って剣先を彼女に向ける。
……が、彼女の鎧の異様な光景につい目を奪われてしまう。
「鎧の傷が……塞がっていく!」
先ほど胸部を貫いた部分が徐々に徐々に塞がっていく。
もちろんこれは模擬戦なので戦闘が終われば壊れた防具も元に戻るのだが、戦闘中は別だ。
なんなんだあの鎧は!?
「もう少しで、一体化できたのに」
「……!」
おそらく、あの傷が塞がったのと同じように、オレの剣とあの鎧の隙間が徐々に埋まっていったのだろう。そして、最終的には抜けなくなるというギミックだ。
「なあ、セイント、あんな鎧を見たことはあるかい?」
「いや、俺はかなりの防具マニアだが……ねぇな」
「なんなんすか……なんなんすかアレ!」
観客席で観ていた面々も驚愕の声をあげる。
そうだよな。あんな、あんな鎧が存在するなんて……!
「……うおおぉぉぉぉッ!!!」
それでも、負けたくはないッ!
デイさんに向かって駆け出して、何度も何度も切り掛かる。
「ふふ。あっはは!」
オレの攻撃を剣で弾いたり、鎧で受け止めたりしながら楽しそうに笑う。
本当に、心の底からこの戦いを楽しんでいるような笑い声で。
「笑ってられなくしてやるよッ!」
「……うっ!」
それが何故かほんの少しだけ怖くて、オレは渾身の一撃を放った。
剣技『ヘヴィ・バースト』。当たれば相手を2秒間行動不能にするスタン技だ。
何度か切り掛かったことで彼女が鎧で攻撃を受け止めるタイミングを察することができたので、此処ぞという時に取っておいたのだ。
「……いくぞ! 『ハートブレイク』!!」
行動不能になった彼女の頭部に渾身の剣技をぶつける。
頭部にピンポイントに当てると、的が小さい分追加のダメージ補正が入る。後は重心、角度を調整しながら……ッ!
「いっけええぇぇぇッ!」
「くっ……!」
鋭いヒット音が場内に響く。
オレはすぐさまデイさんのHPゲージを確認し……
愕然とした。
「そんな……ミリ残ってるっす!」
「それだけじゃねぇ。あれは……」
「ああ、またもや見たこともない……」
観客たちの声を聞いてデイさんの方へ焦点を合わせると、これまた衝撃的な光景が映っていた。
「武器スキル……『ラムダ・レイ』!!」
「あれは……ビット!?」
彼女の顔の前に一枚の板が展開されていた。まるで、彼女を護るように。
いや、それだけじゃない。十枚を超えるほどの板がこちらを向いていて……
それらが一斉にビームを放ってきた。
「な……!?」
辛うじて回避するも、何本かは命中してたようで、HPが半分まで削られている。
よく見れば、先ほどまでデイさんが持っていた剣がどこにもない。もしかすると、あの板の正体は……!
「なんなんだよこれ……くっ! うおおおおぉぉぉぉ!!」
しかし、今それを考えていても仕方がない。ただビームを避けて距離を詰めることに集中する!
「……!」
「あと一撃を与えさえすればっ!」
ビームの雨を潜り抜け、デイさんの目前までたどり着く。
あと一撃っ! あと一撃なんだッ!
「やったぞ──なっ!?」
「……えへ」
「なっ!?」
下から潜り込み、剣を斬り上げ……ようとするが、ガントレットによって弾かれ……そして。
そして、オレはデイさんに抱きしめられた。
「なにを……! あっ!?」
生じた疑問はすぐに解消された。
オレを囲むように宙を浮かぶ板たちがビームを射出していたからだ。
しかし、こんなことをすれば彼女もタダでは済まないのでは?
新たな疑問が生じて……
オレは敗北した。
「ま、マトヤさんが負けたっす!」
「いや、けどこれは……」
「
観客たちの声を聞きオレはデイさんのHPゲージを見る。
たしかに、0になっている。
「……対戦ありがとうございました。デイさん。けど、なんで最後にこんなことを?」
完全に距離を離れてあの板に攻撃を任せていればジリ貧でオレだけが負けていた可能性が高いだろう。それなのに敢えて自爆するような真似をしたのは……
「……あはは、対戦ありがとうございました。えっと、この鎧、ビーム耐性があるので、耐えられる算段だったんですけど……あのハートブレイクにやられちゃいましたね」
「そうだったんですか……って、そう! その鎧に剣は──」
「おーい、二人ともー、いつまでくっ付いてるんすかー!」
「もう試合は終わってるよ。そうしたいなら別に止めはしないけど」
……そうだった。オレはデイさんに抱きしめられたままだった。
緩んだ腕から抜け出し、一息つく。
「実力は申し分ねぇどころじゃねぇな。ギルドに加入……させるかはもう少し考えるとして。マトヤ、ダンジョンを攻略する相手としてはこの上ねぇんじゃないか?」
「たしかに……デイさん。アナタの実力はよくわかりました。こちらからもパーティ結成をお願いしたいです」
「……本当ですか? えっへへ、やったぁ! よろしくお願いしますね!」
手を差し伸べると、デイさんは嬉しそうに両手でオレの手を握る。
……なんというか、少し距離が近いような?
いかんいかん。勘違いするなよオレ。誰彼構わずこんな態度を取っているのかもしれないし、ネトゲの性別なんて信頼できないんだからな!
「それじゃ、早速ダンジョンに行きましょう!」
「……へ? おわっ! ちょっ!」
しかし、一つ引っかかることがある。
戦いながらデイさんが笑っていた時、オレはそれをどこか怖いと思った。それに、パーティが組めると聞いて嬉しそうな顔をした彼女のことを……怖いと思ったし、どこか懐かしいと──
なんて考えていると腕をグイグイと引っ張られてギルドの扉を通過することになった。
──それで、あっという間にダンジョン上層部に着いたのだが。
「もう少し、下準備とか……」
「大丈夫大丈夫! 二人ならいけるよっ! それに、もう我慢できなかったし!」
「……? デイさん?」
なんだか急に口調が砕けている。それに、我慢ってなんだ?
「わっくん、久しぶりっ! 迎えにきたよっ!」
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