第三章 ハイカロリー決戦編
第51話 見えてきた敵 前編
フィンガーライム重人こと、間ヶ部大翔の荒戸馬高校襲撃から一週間。学校は未だ閉鎖されていて、丈太達は自宅学習を余儀なくされていた。
というのも、大翔は三依の言っていた通り、作戦の邪魔が入らないようにまず先手を打って教師を含めた学校職員を襲撃していて、ほとんどの教師が大怪我を負ってしまっていたからだ。比較的軽傷な教師でも全治一ヵ月以上とされていて、再生マグロ重人に襲われた本丸教師などは傷が深く、最低でも全治半年はかかると言われている。
そんな中で、学校側は来年受験を控える生徒への対応を最優先とし、丈太達二年生や一年生は自宅学習ということで落ち着いたのだった。
大翔と言えば、一緒にいた鮫島や緒佐間、洞吹達も重傷であった。
そもそも、MBNによって人間が重人となるには、非常に繊細な調整が必要である。事実、大翔自身も培養カプセルの中で数日間かけて欧田がデータを取り、徐々に身体を慣らして重人になっていったのだ。しかし、この三人の場合は違う。大翔が自らの能力を使い、極めて強引に彼らを重人へと変えてしまったものである。
当然、強引な肉体の作り替えが行われた三人の身体には、大きな負担がかかっている。急激で強い変化は
そして、肝心の間ヶ部大翔はと言えば、三人や襲撃された教師がかわいく見えるほどのダメージを受けていた。
ファイアカロリーの攻撃は、重人達の体内にあるMBNを優先して焼き尽くす効果が確認されている為、本来はそこまで物理的なダメージが残るはずはないのだが、大翔の場合はMBNとの親和性、及び結びつきが強すぎたようで、全身に決して軽くない火傷を負っていた。
その上、ファイアカロリーに敗北した事がよほど大きなショックだったのか、精神的にもダメージを受けていて、彼の意識は常にファイアカロリーに破れる瞬間を繰り返し体験している状態らしい。もはや廃人同然ではあるが、彼がこれまでに丈太だけでなく、他の多くの人間もいじめによって傷つけて来た事をも考えれば、決して重い罰ではないだろう。
丈太は彼らが、心を入れ替えて、いつか回復してくれればと願っているようだ。
だが、それらよりももっと問題なのは――
「そっか、まだ博士は見つからないんだな…」
「……私の責任です。私は栄博士を護衛しろと任務を受けてきたというのに……」
丈太や栄家の近所にある公園で、丈太は三依と落ち合っていた。あの襲撃の日、三依が丈太や明香里達を救ってくれと栄博士から頼まれて、栄家を出た直後に、ハイカロリーは栄家を襲ったようだ。詳しい状況は解らないが、博士の住んでいた栄家の離れは焼け落ちており、その後から博士の姿はどこにも見つかっていない。警察や消防は当初、博士が火事に巻き込まれて亡くなったのではないかと思っていたようだが、焼けた離れから博士の遺体が見つからなかったことで、別の事件の可能性も視野に入れて捜査が始まっているようだ。
とはいえ、丈太や三依、そして家族である明香里達も栄博士が自宅に火をつけて行方をくらませたとは思っていない。現場にはザギンカリーのものと思われる香辛料が残されていた為に、丈太はそれがハイカロリーの仕業であると考えている。ただし、それを明香里達に伝えることが出来ないので、あくまで三依と丈太の間での認識なのだが。
「しかしさ、正直解んないんだよね。どうしてハイカロリーは、栄博士を狙ったんだろ?
「……」
丈太の疑問の通り、何故ハイカロリーが栄博士を攫ったのか、その理由ははっきりとしないままである。確かに、これまでに何度か栄博士がファイアカロリーを手助けすることはあったが、それはほんの僅かな回数だ。目をつけられるにしてはピンポイント過ぎる気がする。
そんな丈太の疑問を耳にした三依は、何か事情があるのだろう、しばらく黙った後でゆっくりと話し始めた。
「それについては……仕方ありません、お話しておきましょう。博士が狙われた理由には心当たりがあります、恐らくですが、間違いはないかと」
「え?」
「どこから話したものか…そうですね。まずドクター栄は、ヨネリカにおいて、兄弟で科学者をしていました。二人は日本から来た天才科学者として名を馳せ、様々な技術を発明していたと聞いています。どちらかと言えば、兄であるドクターの方よりも、弟の方が優秀と目されていたようですが……」
「栄博士に、兄弟……弟さんが?」
「はい。弟の方はヨネリカで大学教授の資格を取り、プロフェッサー栄として工学研究に没頭していたと聞いています。そんな中、ドクターがその英知を結集して開発したものが生体ナノマシンです」
ドクターとプロフェッサーの違いとはなんだろう?と丈太は必死に頭を働かせた。確か、ドクターは博士号を取った人のことであり、プロフェッサーは実際に大学教授として働いている人物を指す言葉だったはずだ。では、教授と博士の違いは?とまで考えたが、それ以上は丈太の頭ではよく解らなかった。しかし、話の腰を折りたくないので、そこは後で調べる事にする。
「生体ナノマシンの開発により、ドクターは一目置かれる存在となり、我が米軍もオファーを送るようになったようです。そうしてしばらく経った後、プロフェッサーは表舞台から姿を消しました。生体ナノマシンのサンプルを持って……」
「ち、ちょっと待って……それじゃ、もしかして重人を造ったのは……?」
「……それから二年ほどが経過した頃です。ヨネリカでハイカロリーを名乗るテロリストが現れ、活動を開始し始めたのは。あなたも知っての通り、重人の力は凄まじい。当初現れた重人は、今ほどの戦闘能力こそ持ち得ていなかったようですが、それでもかなりの脅威でした。何しろ、重人はMBNで守られているので、通常兵器や火器では満足にダメージを与えられませんからね」
そう、MBNは生体ナノマシンと同じナノマシンの集合体であり、銃弾などを打ち込んでも即座に回復してしまう性質を持っている。だが、ファイアカロリーやアイスカロリーのような、生体ナノマシン由来の集中した熱量による攻撃はその回復を阻害する効果があるのだ。だからこそ、ダイエット戦士達は重人に対抗できるのである。
「これはまだ証拠が揃っていないので、機密として、他言無用でお願いします。実は最近、ヨネリカでようやくハイカロリーの母体となる組織の尻尾を掴む事ができました。その名はグラトニー……全世界の食料関連業の三分の一を傘下に収める
「こ、
「ええ、今の所、重人のやる事は人を太らせるというお遊びのようなものですが、実際に彼らが軍事兵器として使用されれば相当な戦力となるでしょう。米軍がその危険性にいち早く気付いて、レッドマンの量産に入った事こそがその証しです。先日ドクターにお渡しした手紙には、トマス
三依の言葉は尚も続く、俄かには信じ難い話だと思いつつも、丈太は朧気に敵の姿が視えてきたようであった。
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