第6話 放課後デートですか?

「さっきぶりだネ!」


天狐は縮んでノブノブになった。


「まだ気になることが沢山あるんだけど、、、ノブノブは何も知らないのか?」


自分の置かれている状況を半分信じるが、まだまだ信じられないことも、気になることもある。


「僕ができることは君たちのヴォイド討伐の手伝いをすること!だからそれ以外の知識は何も知らないヨ!」


「そうか、、じゃあ、、一旦今日は帰ろう」


「そうですね、もう22時ですし」


駅前の時計台を見てネコさんが言う。


「ホントだ、これ歩いて帰っちゃっていいのかな」


俺の素朴な疑問にノブノブが答える。


「それは大丈夫!僕がおうちまでお届けするヨ!準備はいいかナ!」


目の前にいるネコさんの身体が光に包まれる。


「すぐにお家に着くヨ!じゃあお疲れ様だヨ!」


そして俺も──


目を開けたそこはいつも俺が暮らしている自分の部屋。


「はぁ──どっと疲れた」



❖❖❖



「トーマ、顔死んでんぞ」


前の席に座る越谷こしがやユウトから話しかけられる。


「仏のような顔と言え」


ユウトは小学校からの幼馴染み。

夏神ミサと俺と3人でその頃からの仲良しだ。

ユウトは整った顔立ちは小学校からそのまま。

無造作に流した茶髪は、スッキリとした顔と嫌なほど似合っている。

バスケ部に所属するユウトはかなりモテる。彼女はいるんだが。

それに本当に優しい。


「なんかあった?」


「いや、特に何も無いんだけど、、ユウトは魔法少女って信じるか、?」


「いたらいいな」


「だよな」


訳の分からない会話は変な方向へ進む。


「ネコさんとはどうなんだよ。付き合ったんだろ?」


「可愛いよ」


「まさかトーマの最初の彼女があのネコさんとは。驚かされた。でもネコさんは100%本気だろうな」


俺の彼女がネコさんと聞いて、初めて何も言わずに

肯定してくれたのがユウトだ。


「その心は?」


「そもそもネコさんは見るからに男で遊ぶような人じゃないし、それに、お前のいいところに気付いてんだろ」


「なんだ、それ」


ははっと2人で笑う。


やがて授業が始まった。



❖❖❖



「ネコさん、体に違和感ない?」


「私は無いです、トウマ君は?」


「俺もないよ」


ならよかった。と2人で安心する。

昨日にあんなことがあったけど、お互いは何も変わらないみたいだ。


「髪の毛、戻ったんだね」


猫さんの髪の毛は胸元までの黒いロングヘアに戻っている。インナーカラーもない。


「き、昨日の髪型は忘れてください!」


6月後半、まだ明るい道を2人で歩く。

彼女と放課後デート。俺にとっては初めてのイベント。正直ワクワクだ。


「ネコさん、ショッピングモールでいい?」


「トウマ君と一緒ならどこでもついて行きますよ♡」


やがてショッピングモールに到着する。

かなりの大きさ。映画館と、様々な店が並ぶショッピングモール、そして沢山の飲食店が連なるフードコート。

この地域で1、2を争うほどのショッピングモールだ。


「トウマ君!あれ!あれ撮りましょう!」


「あれって、あれってなんだ、、?」


腕を引っ張られてたどり着いたのは、たくさんのプリクラ機が並ぶコーナー。


「プリクラです!撮りましょう!」


辺りを見回すと、たくさんの女の子。女の子女の子。

その女の子のほとんどがこちらを向いている。いや、性格にはネコさんを見ている。

「あの子、可愛い」「モデルさんかな」

そんなソワソワとした声がかすかに届く。


「いや!俺プリクラなんて──」


「いいんです!私が撮りたいだけなんです!」


いつになく強気なネコさんに押される。

最近はある意味で押しが強かったけど、今回はまた違った意味で。


「わかった。でも変な顔でも文句言わないで、初めてなんだ」


「はい!!もちろんです!!」


満面の笑みをうかべるネコさん。


今日はいつもより可愛く感じる。


早速、財布を取り出して、百円玉を5枚プリクラ機に投入する。


「あ、私が払おうと思ってたんですけど」


「いいよ、これぐらい。なんだかんだ言って、俺もネコさんとのプリクラ欲しいからさ」


付き合ってまだ3日。

スマホにも写真は無いし、手元に写真なんて持ってるわけが無い。

思い出のひとつとして持っていたいのだ。


「っ、、、ありがとう、、、ございます、、」


プシュッと、顔を赤らめてうつむくネコさん。

照れてるんですか?


抱きしめたい。


本能を理性でギッチリと押さえ込み、プリクラ機の中に入る。


白い箱の中にふたりで入る。カメラがこちらを覗いている。


いつか、高校一年生の頃に、ミサとユウトと3人で撮った時以来だ。

あの時は友達のノリで撮れたからいいけど、今はなんて言うか、どうすればいいんだっけ。


「それじゃあ撮りますね!」


「ポーズは──」


パシャッ


何も分からず慌てた顔が撮影される。


そしてさらに次。


パシャッ


隣に立つネコさんは今どきの女の子らしいポーズを決める。何も分からない俺はただピースをするか、突っ立っているだけ。


それだけでも十分幸せだと感じれた。


狭い空間の中で、お互いが、お互いをレンズの中央に写そうとするため、やけに密着してくる。


また1枚。マヌケな顔が撮影された。


次が最後の1枚の撮影だということを知らせるアナウスが鳴る。


「トウマ君、腕、、貸してもらっていいですか、、」


昨日はグッとネコさんから抱きついてきたのに、今日はやけに素直なネコさん。

断る理由がある訳ない。


「うん、、」


ゆっくりとネコさんが俺の腕に抱きつく。


「ありがとう、ございます、、」


ちょっと照れた顔をしたネコさんはカメラを見れていないみたいだ。


そういう俺も同じだけど。


パシャッ。


そんな2人をカメラのレンズはしっかりと捉えた。

幸せ2人を1枚の写真思い出に残すように。


最高の1枚が撮れた。



❖❖❖



その夜。


ネコさんとのプリクラを見つめる。

その隣に立つマヌケな顔の俺。

そっちはなるべく視界に入れないようにしよう。


頬が緩んでしまう。


『ネコさん、今日はありがとう。楽しかった』


そんなメッセージをネコに送ると、直ぐに返信が来た。


『こちらこそありがとうございました!楽しかったです!ฅ•ω•ฅ』


ベッドに仰向けになり、目を瞑る。


「夢みたいだな、全部」


1年間恋した女の子が彼女になり、その子が魔法少女になった。


「ありえねぇー」


否定的なわけではなく、あまりにも現実味が無さすぎる。

でも、そんなことお構い無しに、世界は俺に現実を叩きつけてきた。

なぜなら──


「ちょ、!えぇ!って!ネコさん!?」


目を開けたら夜空が近くにあるし、魔法少女ネコ(しっかりツインテール)が目の前にいたからだ!!!



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