第5話 授業ですか?

カニ野郎の腹をぶち抜く感覚。

サイッコーに最悪だった!!


やがては光り始め、霧散する。

同時に光が収束し、朝霧トウマは以前の姿で現れる。


「あ、戻った」


「トウマ君!守ってくれてありがとうございます!これからも愛を伝え合いましょうね♡」


デレデレと俺の腕に抱きついてくるネコさん。

ああ、愛らしい。美しい。

あ、でもまたそのお胸が、、あっ、あぁ、、


「トウマ君、どうしましたか、、?怪我しちゃいました!?」


「ち、違うよネコさん!俺は大丈夫!ありがとう、!」


「イチャイチャは後にして、こいつを片付けちゃおうネ!」


白キツネのノブノブはカニ野郎の死体(?)の上に、4本足で降り立つ。


そして、訳の分からないことを唱える。


「──ヴォイド、生命活動の消失確認。

只今より、生命機構〈アルテマ〉抽出作業を開始。

よって、疑似人格解除申請──


──許可」


「ノブちゃん、何を言ってるの?」

「大丈夫か?」


機械的な言葉。それに呼応するように、ノブノブの体が眩しく輝く。



「神性個体、神獣名〈天狐〉

第Ⅷ階級:高貴なる教育ノブレス・オブリージュ

──限定顕現」


発光状態になったノブノブの身体が膨張し、変形していく。


「うわ、大丈夫なやつ?」


それは俺たちと同じ高さぐらいの人型のシルエットになる。


現れたのは──


「ご機嫌よう、ネコはん、トウマはん──」


煌びやかな十二単じゅうにひとえに包まれた美女。

それが銀色を基調としている。それに加え、膝下まで伸びる艶のある銀髪で、シルエットが下から上まで眩しい。

大きく開かれる赤い瞳。すらっと通る鼻筋。今にも消えてしまいそうなほどの白い肌。そして赤く塗られた唇。

あまりにも美しかった。


だから、しばらく見つめてしまった。


「──トウマ君!何を見つめてるんですか!!やっぱり私だけじゃ我慢できないんですね!?」


「ち、違うから!違うよ!?」


「あら、ええんよ?もっと見蕩れとっても」


妖美な仕草でふふっと笑う美女。

それと同時に、今まで見えなかった9つの尾が揺れる。


「ノブノブ、なのか?」


「ちょっとちゃうなぁ。うちは天狐てんこ言うんよ」


「ノブちゃんじゃないんですか?」


ちょっと悲しそうな顔をしたネコさんが聞く。

なんだ、すごく可愛い。


「ノブノブはなぁ、うちのもう1つの人格なんよ。可愛ええやろ?」


「そうなのか、じゃあ──天狐、今何のために出てきたんだ?」


を喰う為や」


そう言って、生命活動を終わらせたカニ怪人を見やる。


「喰うって──」


「聞くより見た方がええんちゃう。ほな早速いただいてええ?」


「これが残ったら俺達も困るからそれはいいさ」


「ほんなら遠慮せんわぁ」


天狐がカニ怪人の傍に屈む。そして掌を当てる。

やがて当てられた掌は紫色にほんのりと光る。


やがて怪人はみるみる小さくなり、やがては飴玉ぐらいの紫の玉になってしまった。かなり禍々しい色。


そしてそれを


「んっ──」


妖艶な仕草で、赤く染まる口の中へ。


ごくり。


重々しい嚥下。その動作すらも美しい。


「ごちそうさん。見た目通り、低級やなぁ」


「美味しいんですか?」


興味津々で聞くネコさん。それ聞く??


「ええこと聞くなぁネコはん。味はモノによってちゃうんよ。強いんは美味いんよぉ。でも弱いんはそんなにやなぁ」


──ちょっと俺も気になる。


「今んは低級も低級。超低級。Eクラスぐらいやなぁ」


「なあ天狐。急だけど、今俺たちに起こってることを全部説明してくれないか──?」



❖❖❖



俺とネコさんは駅前の人工芝の上に座って、天狐の説明を聞く。


天狐は指先で宙をなぞると、そこに浮遊する文字を残してくれた。

そのため、説明はスムーズだった。


概要はこう。


まず、魔法少女は全世界に24人いて、日本だけで10人も存在すること。


怪人のことをヴォイドと言い、FからAランクまでの強さに別れること。今回のはたまたま人型の怪人であったが、上級になれば伝説レベルの怪獣まで出てくること。

生まれる理由は不明。しかしそれから抽出される生命機構のアルテマを食べれば、以下の神獣の力があがるとのこと。


ノブノブのことを神獣と言い、それは魔法少女の数だけ存在すること。また、神獣には階級制度が用いられていること。


「うちはⅧ階級の神獣なん。Ⅰが強くてXXIVは弱い。

あと、神獣は1柱に1つ、存在を世界に固定するために、役割を与えられてるんよ。

うちは。正式には高貴なる教育ノブレス・オブリージュ言うんやけど。それをもじってノブノブにしたんよぉ」


「かっこいいお名前です!」


目をキラキラさせて言うネコさん。


「なんで教育なんだ?」


「ええ質問。魔法少女は元は1人だけだったんよ。原初の1人、始祖。孤高の天才。〈伝説の魔法少女〉。約500年前に誕生した最初の魔法少女ルルべべに、教育係として生み出されたんがうちや。だから教育。な、教育が上手いやろ?」


話がごちゃごちゃで分からん。500年前って。

隣のネコさんはウンウンと頷く。

適応能力の高さと、地頭の理解力の高さがものを言わせている。


「そのルルべべさんはどうしちゃったんですか?500年前だから、もう亡くなっちゃってますよね」


「簡単に言うと、行方不明やなぁ。うちら24の神獣もなーんもわからんの。でも──


Ⅰ階級の神獣と、1つの魔法少女の座は、んよ。

魔法少女は居なくなったら補填されるもんなんよ。実はまだ生きてるんちゃう?」


「でも生きてても500歳以上じゃないか」


「だめだめトウマはん、女の子はいつまでも女の子なんよぉ。年齢について話すんは野暮や」


解せぬ。


「あ!天狐さん!天ちゃんってよんでもいいですか!」


「あら、嬉しいわぁ。そんな仲良くしてくれるん?大歓迎やわぁ」


ネコさんは嬉しそうな顔をして、やった!と喜ぶ。

もう、可愛いんだから、、、


「じゃあ質問いいかな」


「ええよ」


「なんでネコさんが魔法少女に選ばれたんだ?」


「それはなぁ。ネコはん。左の手首見してくれん?」


抵抗せずにネコさんが手首を出す。

そこには


「え!なんですかこれ!」


手首には、血が滴っている‪‪ハート型の印が赤くついていた。


「ネコはん、ここに来る前にリスカ、したやろ。それが理由」


「ごめん、わからん」


そうよね。と笑って天狐は続ける。


「ルルべべは自分の他に23人の少女を魔法少女にしたんよ。そこで『』の起源をもつ最初の魔法少女は、継承の条件をこう決めた。『愛する者を思い、長年に渡り自傷行為をすること』や。それに適合したんがネコはんなんよ。

そしてその印が契約の印」


愛する者を思って長年の、自傷行為か──


つまりそれって、、!


「わー!わー!わーー!!」


顔を真っ赤にしてネコさんが誤魔化す。


「たまたまですよ!たまたま!!!私はリストカットなんてしてませんよ!ホントです!!トウマ君も照れないでください!やめてください!病みそうです、いやぁ」


手で顔を覆うネコ。


なんですかこれ。ちょっと、かなり。幸せ──。


「ネコはん以外にも魔法少女はいっぱいおるんよ、この前まで育休してた魔法少女もおるん」


育休って、魔法じゃないだろ、それ、、


「トウマはん、失礼なこと考えたらいけんよ?」


あまりにも綺麗な笑顔に背筋が凍る。


「ま、こんなもんやなぁ。そろそろうちの限界や。素直に聞いてくれておおきに。ほな、さいなら」


「ちょ!まだ聞きたいことあるんだけど!」


「もう限界なんよ、また次の機会に聞いてやぁ」


「天ちゃんバイバイ!」


天狐は光に包まれ、やがて見た事のあるシルエットに縮む。


「──やぁ!さっきぶりだネ!」

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