第4話 倒せるんですか?

月が照らす夜空に、1人の魔法少女が舞い降りる。


丈の短い漆黒色のフリルのドレス。太ももまで伸びるタイツ。そこからは白く艶やかな瑞々しい肌が覗く。


たなびく黒く艶のあるツインテールは、インナーは赤く鮮血のように染まっている。


黒い魔法少女。


しかし何よりも異様なものは、手に握る大きなカッターのような剣。赤と黒で血液のような装飾がされている。


ふわり。


少女は駅前の広場へと軽やかに着地した。


異様なことに、周囲に人の気配は無い。


少女と対峙するのは、頭部が蟹の怪人!

目測3mあるそれは、少女を振り向くやいなや、拳を振り上げ、襲いかかる。


「ネコさん!避けて!」


俺が言うまでもなくネコさんはスっと後ろに飛び退いた。


目の前を左から右へと横切る拳。


かなりの早さだ。


「見えます!すごく良く見えます!あんな動きすぐ避けれちゃいます!」


「そう!その身体能力の向上が魔法少女パワーだヨ!」


キツネ野郎が何か言っているが無視しておこう。


「それではトウマ君!早速使わせて頂きますね!」


「え??俺でアイツのこと切んの!?本気!?ちょ!!」


唐突な発言に驚きを隠せない!


嫌だ!なんかカニの頭をしてるやつの体内にねじ込まれるのだけは嫌だ!!


「で、でも!カニ怪人さんを倒せるのはトウマ君だけなんです!」


困った顔でそう言うネコさん。可愛すぎませんか。

特にそのツインテールがたまりません。


「大丈夫!ネコさんのためなら俺やるよ!」


何言ってんだ俺。


「ホントですか!トウマ君はやっぱりかっこいいです!

ではいきますよ!!」


少し離れたカニ怪人に向けて足を踏み込む。

3歩進んだところでの間合いに入る。


──そこで剣を横に薙ぐ!!


「おい!カニ!避けろ!避けろよォ!!!」

やっぱり嫌だ!あいつの中にだけは入りたくない!


「ガニィ!!」


怪人は高く飛んでそれを躱す。


「よくやった!カニ!」


喜びを隠せない俺のことをネコが見つめる。


「・・トウマ君はどっちの味方なんですか、、」


柄を握る手に力が入る。


ちょ。痛い痛い。


「ネコさん、よそ見しちゃダメ!ほら!あいつまた来たよ!」


こちらに走りながら殴る姿勢をとるカニ。


「ガニッ!」


拳はグッと伸び、ネコはそれを再び飛んで避ける。


もう片方の手からの更なる打撃。腕が伸びる。ゴムみたいな腕だ。


連撃。それをバックステプで避けきれないと判断したネコは、手に持つカッターでそれを防ぐ。


「拉致があかないですね!!」


迫る腕を横に避けた刹那、腕に刃を落とす。


ぐにゃりと曲がる腕は切れそうで切れない。

俺にも変な感触が伝わってくる。


「ダメだ!柔らかい!」


またもや後ろに飛び退け、間合いを取る。


「ネコさん、大丈夫?」

「私は大丈夫です。でもどうしましょう」


再び迫る腕。それも両手同時だ。

どうやらネコを掴もうとしているらしい。


それを横に身軽に避けるネコ。


しかし、その蟹顔から伸びる触手の様な腕には気づかなかった。


触手はネコの細い身体に巻き付き、締め上げる。

かなりの強さ。見た目以上にアイツは強い。


しかし、ネコのその手は俺を離さない。


「おい!カニ野郎!ネコさんを離せ!」


「ガニッ!ガニガニガニィ!ガニガニ!」


「何言ってんだお前!全然わからん!」


「ガニィ、ガーニガニガニ!」


ネコを締める触手の力が強くなり、痛みに喘ぎを漏らす。


くそ!俺がいながら何もできないなんて!彼氏なのに!こんな体たらくか!!


「ノブノブ!なんとかできないのか!」


少し上の方に浮いている白キツネに言う。


「早速ピンチだネ!じゃあひとつ助言をしておこうかナ!魔法少女のパワーの源は、ダーリンの愛だヨ!」


愛、愛かぁ。

今は嘘くさいこいつの言うことを信じるしかないよな。


すっげえ恥ずいけど。


よし、、よし、、!!!


「ネコさん!!聞こえる!?」


「うっ、、、!トウマ君、、」


「ネコさん、俺はネコさんのことがさ──」


彼女と初めて話してから約1年半。やっとのことで恋が叶った。1度たりともこの感情を忘れたことは無い。



「大好きだ──!超超超、超好きだ──!!」


剣から響く声。

情けない男の、哀れな声だが、それが今はネコの最大限の活動力になる。


「──トウマ君──私もです──!」


途端、触手が引きちぎれる。

ネコが腕を広げ、触手を引きちぎったのだ。


すごいパワーじゃないの。愛ってすごい。


そこからは早かった。


痛みで悶えるカニ野郎の触手を片手に持ち、剣で叩き切る。


「ガニ!」


凄まじいパワーのストレートパンチをかまし、倒れたところで片腕を叩き切る。


切断行為に躊躇いがないのはいつもの癖故か、魔法少女になった故なのか、、


ともかく、今このカニ野郎は俺たちの目の前に倒れている。


「おい、カニ野郎、命乞いでもしてみたらどうだ!!」


「ガニィ!ガニッガニッガニィ!!」


残る腕で中指を立てやがった。


こいつ、、最後まで、、、


「ガニッ!ガニッ」


「おめでとう、ネコちゃん。初めての怪人だったのに。すごいネ!」


「ガニッガニ!」


「ノブちゃん、ありがとう」


「ガニィ!」


ノブちゃんって、、

もう仲良くなったの?


「ガニガニ」


「ネコさん、大丈夫?怪我してない?」


「ガニーニー」


「大丈夫ですありがとうございます♡」


「ガニッ」


「ちょっとそこのお前!ガニガニうるさいな!!」


「ガニィ!!!!」


ネコに踏まれて立ち上がれないカニ怪人。


「じゃあそろそろちゃんと倒さないとネ!」


「そうですね──では、お命、頂戴いたす!!」


「あばよ、カニヤロ──って、ちょ、まっ俺で刺す──」


グサッ


「ガニィィィィィイ!!!」「ギョェーーーーー!!」



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