第3話 カニとキツネなんですか?

目を開けたそこは、慈羅じらネコがいた。


結ばれたふたつのツインテールに、赤いインナーカラー。丈の短い、フリフリのドレス。太ももまで伸びるタイツ。そのどれもが、漆黒色を基調としている。


「トーマ君、やめてください!見ないでください!」


そう言って恥ずかしがるネコ。

透き通るような白い肌。パッチリと開かれた目。その下にぷっくりと薄赤く浮かぶ涙袋。通る鼻筋に、ほんのりとピンクに染る唇。そして頬。


異様だけど、とても似合っているし、なによりも、可愛かった。


──でも、どこか懐かしい感じがする。


変な感覚に襲われた朝霧トウマはもう一度ネコを見つめる。


猫の後ろにたたずむ、大きな月の光はネコの美しさをさらに強調させていた。


──大きな、月?


嫌な予感がして足元を見る。

広がる暖かい住宅街の光。それが今は、えらく離れている。

つまり、俺たちは上空にいる。浮いてる。


「うわぁぁ!なんだこれ!?」


「どうしたんですかトーマ君!?」


「浮いてる!俺たち浮いてるよ!」


「そうですね!きっと愛の力です!」


「何言ってんの!?」


と、その時、


ドスンと大きな音が鳴り響いた。

同時に住宅街の家々も少し揺れている。


「次はなに、、?」


「トウマ君、あそこ、、!」


ネコが指さすのは、駅前に設けられている、直径10メートルほどの人工芝のエリア。


そこに異形。


シルエットは人の形に似ているが。

背丈は見るからに高い。3mほどだろうか。

加えて、頭部が気色悪い!!

カニだ!アレ!


人の骨格なのに、頭部だけカニになっている。もちろん手足はしっかりとついていて、今にも紙を切りたそうだ。


「なんだアレ!!??」


驚きの声を出す。

と、その時


「アレは、怪人だヨ!」


どこからともなく声がした。

そしてパッと目の前の空間が淡く光り──


「やぁ!僕はノブノブ!君たちをサポートする(超kawaii)キツネさ!」


白く綺麗な毛並みを持つ、キツネだった。

ちなみにしっぽは9つ。目は黄色い。

妖怪じゃないか。喋るし。


「わ!キツネさんです!トウマ君!可愛いですね!」


「そ、そうだね。で、なんなの?」


最早驚きは無い。目を開けたら彼女が魔法少女になって、空に浮いているんだから。もうなんでも来い。慣れって怖い。


「もっと驚いてくれていいのに。ネコちゃん!魔法少女は初めてだよネ!」


「魔法少女!?なったことあるわけないです!」


「そうだよネそうだよネ!じゃあひとつずつ説明する暇は無いから、実践しながら説明するヨ!」


と、例の怪人を見下ろすと、


「アイツを、今からぶっ殺そうヨ!」



❖❖❖



「あのカニ怪人さんは悪い人なんですか!?」


「もちろんだヨ!アイツをぶっ殺さないと、ネコちゃんの愛するダーリンのお家は無くなっちゃうし、ダーリンのお母さんもカニカニになっちゃうかもネ!」


性格わりー!何だこのキツネ!!


「それは、、!ぶっ殺さないと!病んでしまいます!」


「なんでそっちも乗り気かなぁ!?」


そんな俺の声を無視し、2人は怪人に向かって滑空する。まるでスケートのように。

なんでもう慣れてるかな、、、


「それじゃあネコちゃん、まずは戦う武器がないといけないよネ!」


「そうですね!カッターは無くなっちゃいましたし、、」


「じゃあ早速いってみよう!僕がせーのって言ったら、『アムール』って言うんだヨ!恥ずかしがらずにネ!」


ネコはそれにぶんぶんと頷く。ツインテールがぶるぶるしてて可愛い。


「じゃあいくヨ!せーのっ」


「アムーーーール!!!」


そうネコが叫んだ瞬間、朝霧トウマの身体は光となって霧散した。


そして代わりにネコの手に現れたのは、カッターのような剣。刃渡りは約70センチほど。柄の部分は赤と黒で血液のような装飾がされている。


そしてそれが、


「ぎょえーー!!!俺!なに?なんでネコさんの手の中にいんの!?」


「え!?トウマ君なんですか!?トウマ君!」


俺だった──!!


見上げると、こちらを覗くネコの顔。


視界は全方向を一瞬で確保できるし、体は全く動かせず、なんだか鈍い感覚。しかし、満たされる感覚だけがある。


「ネコさん俺だよ俺!声は聞こえているんだ!」


「トウマ君なんですね、、、トウマ君、、ふふふ。沢山私の手で使ってあげますからね、、ふふふ♡」


ネコは柄を握る手を強める。

恋人を抱きしめるように。


そしてキツネノブノブが言う。


アムール武器恋製成功だネ!さああいつをぶっ殺そうヨ──!」

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