第2話 魔法少女なんですか?

電柱の影でソロリと揺れるネコ。


「ネ、ネコさん、、、?」


声をかけてから数秒後、ゆっくりと慈羅じらネコは、姿を現した。


朝霧トウマは、自らの彼女の姿に、恐ろしながらも、目を奪われた。


胸まで伸びる絹のような黒髪。陶器のようで、それでいて抜けるような白い肌。そこに大きく開かれた二重の大きな目。そして美しい黒い瞳。その元にぷっくりと淡く赤い涙袋。

それが今は、眉の少し下でキッチリと揃えられたパッツンの前髪の影に隠れる。


しかし、最も目を引いたのは、その手に握られている、

カチカチと刃を出すタイプ。


それを、、


「トウマくん、、さっきの女の子、、だれですか、?」


左の手首に当てて質問をしてきた。


まるでナイフを突きつけられてるかのような脅し!

いや、実際に刃を突きつけられている(突きつけている)のはネコなのだが。


「さっきって、、」

「誤魔化さないでください!!さっきの金髪の子!」


今までに聞いた事のないようなネコの声に少し驚く。


「いや!あれは!友達だよ!友達!」


焦りが声を上ずらせた。


「怪しい、、」


何ミリか刃がキレイな手首に近づいた、、、、いや!キレイじゃない!!リスカの跡が既に何個かある!!キレイじゃない!!!


これは早急に変な誤解を解かないとまずい。


「ほんとだよ!!小学校からの幼なじみでさ!!夏神ミサっていうんだよ!ね!友達だから!」


必死の懇願にネコは顔色を変えた。


「ほんと、、?」

「ほんとだよ!大丈夫!」

「、、よかった、、トウマ君は私だけのものですから♡」


そう言って俺の腕に抱きついてくる。

ちょ!胸!お胸が当たっています!!くーー!!


「ちょ、ネコさん!」


崩壊しそうになった理性を全力で引き戻す。


「え、嫌なの、、?」


そう言うとバッグにしまったカッターを取り出し手首に再度当てる。


、、、、、


もしかしてネコさんって、、


、、、地雷少女なのか──!?!?



❖❖❖



放課後、弓道部に入っている俺だが、今日は部活が休みだった。

なんで、そのまま帰路につく。


「ネコさん、一緒に帰るか誘ってみるか」


登校時の恐ろしい出来事の記憶を頭の中で抹消(できてない)した俺は、メッセージアプリでネコさんに連絡する。


『ネコさん、今日一緒に帰らない?』


1秒、いや、もはやメッセージを送った瞬間に既読がついた。


可愛いな(恐ろしい)。


『帰ります!すぐに行くから校門で待っててください!^›⩊‹^』


心の中で喜びつつ、『ありがとう』と返信し、スマホをしまう。


途端、肩をポンと叩かれた。


「朝霧、待ち合わせ?」


声の主に目を向ける。

そこには、茶髪のポニーテールを揺らしながらニッと笑う、天内あまない アイサ先輩。

そして、腰まで届く流れるような白髪をたなびかせ、柔らかく微笑む、犬屋敷いぬやしき ニコ先輩が並んでいた。

どちらも弓道部の先輩だ。


「こんにちは、トウマ君」


ニコ先輩も優しく挨拶をしてくれる。

ニコ先輩は柔らかい天使のような顔に、泣きぼくろが特徴的な人だ。


「先輩方、こんにちは。まあ、そんなところです」


「おー?女か?」

アイサ先輩は、端正で整った女性的な顔立ちとは裏腹に、男顔負けの姉御肌である。

喧嘩には負けたことがなさそうな(風の噂)


「よくぞ聞いてくれました。僕、彼女ができたんです」


「は?」「え?」


「いやだから、彼女ができたんですよ」


「聞き間違いじゃないよな」

「はい、きっと聞き間違いじゃないと思います」


2人が顔を合わせて確かめる。


「で、、、誰なんだ?相手は」


「慈羅ネコさんです。有名人だし、先輩方も知ってるんじゃないですか?」


「はー!?!?慈羅ネコだぁー!?お前それ、遊ばれてるんじゃないか!?2年生のマドンナだろう!彼女!」


「アイサ、駄目ですそんなこと言っては。急に現実を突きつけられたら、夢を見ているトウマ君は失神してしまうかもしれません」


すごいこといってるな。この人たち。

特に、優しい笑顔で本気で心配しながら、素で惨い事を言うニコさんに関しては、俺はもう泣きそうだ。てか泣いていい?


「遊ばれてないし、本気ですよ。、、、多分」


2人が目を再度見合せる。


「で、その慈羅ネコなんだが、さっきからこちらを睨んでるぞ。鬼のような形相でな。何かしたのか?トウマ」


そう言ってアイサ先輩は、目を校舎玄関へと続く並木に向けた。

そこにあったのは、朝に電柱の影からこちらを睨んでいたネコと同じ姿!!!!


恐ろしい!!!!!


「ア、アイサ、そろそろお暇しましょう。ほら、ティータイムの時間です」

「あ、ああそうだな」

2人はスタコラと去って(逃げて)いった。


ティータイムってなんだよティータイムって。逃げやがって。


そんな場合ではないと自分に言い聞かせ、並木の方へ歩く。

かなり勇気を要した。


「ネコさん」


「・・・・・・」


「あの、ネコさん?」


「・・・トウマ君・・・」


俯きながらネコは木の影から出てくる。

そしてゆっくりと顔を上げる。


「え、ネコさん、、」


そのキレイな瞳には涙が滲んでいた。


「ネコさ──」


「朝もさっきもトウマ君は女の子ばっかり!やっぱり私だけじゃ我慢できないんですね!!私なんかやっぱりたっくさんいる女の子の内の1人に過ぎないんですね!!」


涙をぶわっと漏らし、目元を拭いながら走り去る。



「ネコさん!!」


咄嗟のことに驚いて追いかけるのが遅れた。校門を出た時にはもう、ネコの姿は見えなかった。



❖❖❖



「どうしよ」


風呂から出て、ベッドに寝転ぶ。


メッセージアプリを開き、ネコとのトーク画面を開く。


「謝るしか、ないよな。誤解だとしても。悪いのは俺だ」


いくら彼女が地雷チャンだとしても(まだ認めてない)彼女がいるのに、他の女の子と話してたのは俺だ。



❖❖❖



薄暗い部屋の中。

パソコンから漏れる青白い光を浴びて、慈羅ネコは自らの左の手首を見る。


横に走る何本かの


たった一人の男の子に6年以上、思いを焦がして、それが膨れて、増して、爆発して、嫉妬して、でもやっぱり好きで、それがカタチになったもの。


朝霧トウマは知る由もないが。ネコは小学校から彼に思いを寄せていた。


理由はまたいつか。


ただいま重要なのは、私が恋人で。トウマ君が私の彼氏であるということ。


じゃあ私だけのもの。そう思う。


「歪んでますね、私は──」


その自責の念が刃を手首につきつけさせる。

依存。簡単に言うとこれはそういうもの。

痛みに逃げ、傷に安心する。


でもそれでも──


「私は、トウマ君が好きなんです」


自分を責める感情と、彼を愛する感情がごちゃまぜになる。だから



「あーー、病んだ。病みました」



プツッ。


いつもならそこから血がこぼれる。


それが今は、ちょっと違う感覚で──



❖❖❖



「よし、謝ろ」


メッセージアプリに文字を打ち込もうとしたその時──


「ちょ!え!なにこれ!?は!?」


文字を打ち込む指先が発光する!


「光ってる!めっちゃ光ってんだけど!!」


指先だけやじゃない。身体中が光を放ち、粒子のようになって霧散する。


「消える!?え!?俺消えんの!?楽しい人生だった!!」


あまりの眩しさに目を瞑る。

そして世界が溶ける感覚。

何も見えない。触れない。


けど何か、満たされるものがあった。



そして急にスっと感覚が戻る。


目を開けると──



「ネコ、さん、、、?」


「トウマ君、、、?」


目の前に彼女がいた。


しかしいつもと見た目が違う。


バッチリと結ばれた2つの黒い絹のようなツインテール。髪の毛のインナーは赤く染まっていて。

何よりもスバラシイのが


「ネコさん!?その服!!」


それは、あまりにも魔法少女だった。

少女の在りし日の夢の姿。そのものだ。

フリフリの短いスカートに、装飾煌びやかなドレス。そして太ももまで伸びる黒いタイツ。

でもちょっと魔法少女のそれと違うのは。


「黒!魔法少女なのに黒!!」


基調とする色が全て漆黒色ということだ。


「な、何を言ってるんですかトウマ君!私だって何も分からないんですから!って、見ないでください!!病んじゃいます!!」


恥ずかしがるネコを、見つめる。


ただ少し、なぜか懐かしい気がした──

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