私たちの温泉旅行(行けるとは言ってない)
【申し訳ありません。・・・ただいま、ルビーの街へのルート近くにサイクロプスなどの強力なモンスターの巣が発見されたため、馬車の運行は休止となっております。既に冒険者ギルドに掃討依頼を出していますが、運行の再開は安全が保障される3日後かそれ以上かかる可能性があります。お客様には・・・】
馬車の乗合場の受付窓口にそんな張り紙が貼ってあった。
私たちは各自、思い思いに休暇を過ごしていたが、アメリ―が突然パーティ全員で温泉に行きたいと言い出した。
本人は「パーティメンバーとの親睦を深める」という名目で言い出したんだろうが、パーティリーダー(ライト)との親睦を深めたいがための提案であるというのは丸わかりだった。
だって、「親睦を深める」の辺りでライトの方をチラチラ見ていたんだもの。
そんな下心丸出しの提案は唯一気が付いた様子がないライトによって可決された。
温泉に行くのは初めてだから楽しみとのことらしい。
・・・そういえば温泉、1回も入ったことないな。
故郷の村では家の水風呂、街では宿に併設されているお風呂や公共銭湯には入ったことはあるけど、温泉と呼ばれる場所には行ったことがない。
お風呂と何が違うのだろうか?
まぁ、そんな感じで決まった休暇旅行の行き先、温泉で有名な街であるルビーに行くための馬車の切符を買おうとしたのだが、受付窓口に冒頭の張り紙があったわけで・・・。
「な、ななななんでこのタイミングで馬車が止まっているのよ!」
あっ、アメリ―がキレた。
「仕方ないでしょ。張り紙にある情報からしてモンスター、しかもBランクが巣を作ったらいいもの。というか、普通の街だったら今頃大混乱になって緊急クエストが発令されているわよ」
「Bランクなんて私たちの敵じゃないわよ!こうなったら私が全部討伐してやるわ!」
「駄目ですよ、アメリ―さんの剣は火が出るから下手すると近くの森に燃え移って森が大炎上して馬車の再開どころじゃなくなります!なので大人しく待ちましょう!」
楽しみにしていた温泉旅行がいきなり頓挫して荒ぶるアメリ―とそれを抑えるネイレスとクリスタ。
これが「黄金の空」の3人娘の日常だ。
それをいつも通り苦笑いで静観するライト。
私はそんなライトにこれまたいつも通りアメリ―を宥めて来いとアイコンタクトを送る。
あの状態のアメリ―を宥めるのはライトが一番適任だしね。
「あー、3人とも、落ち着いて」
違う、そうじゃない。
落ち着いてないのはアメリ―だけだ。
「何よ、私はずっと落ち着いてるわよ」
嘘つけ。
「失礼ね、私とクリスタは荒ぶるアメリ―を抑えてただけよ」
「誰が荒ぶっているっていうのよ!」
「アメリー、落ち着いてください!いい加減にしないと轢きますよ!」
なんか余計に事態がややこしくなり、クリスタまで物騒なことを言い始めたが、この後、ライトの必死の仲裁により全員が落ち着きを取り戻した。
私?私はそこらへんの屋台でビックチキン(Eランクモンスター)の焼き鳥を食べながら終わるのを待っていたよ。
焼き鳥は塩もタレも美味しいよね。
ライトの仲裁により、3人娘は馬車の運行再開までの3日の間、交代でライトと2人きりで過ごす、つまりデートをすることになったらしい。
なんでそうなったんだよ。
まぁ、決まってしまったものはしょうがないし、そもそも私からしたらライトが他のパーティメンバーとイチャイチャしていてもどうでもいいことだったなと思い直す。
・・・いや、ちょっとムカつきはするか。
そういうことで、今日は解散して、明日から順番にデートするようだ。
明日のデートは誰がするかを決めるため、3人娘がじゃんけんを始めだす。
結果はクリスタ、アメリー、ネイレスの順となり、嬉しさのあまりライトの腕に抱き着くクリスタ。
いきなり抱き着かれて慌てるモテ男ライト。モゲロ
ライトに抱き着いているクリスタに気が付き、引き剥がそうとする敗北者2人。
自分との格差を見せつけられて、ライトに嫉妬やら殺気やら怨念やらの負の感情が籠った視線をぶつける周囲の一般通行男性の方々。
そんないつもどおりの光景を見ながら、ライトのモテ具合にイラつく私。
こうして、「黄金の空」の温泉旅行は延期となり、ライトの3連続ドキドキデートが始まるのだった。
・・・
私、その3日間どう過ごそう・・・。
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