灰狼少女のとある1日


 今から私は、これからの人生を左右する大勝負に挑む。

 こんな時のために準備しておいた高価な花束を携えて、

 愛する人へ送る定番の物である宝石が埋め込まれた指輪が入っている箱を持ち、

 この想いを伝える為の一歩を踏み出した。


「お姉さん、あなたに一目惚れしました。結婚を前提に付き合ってください!」

「すみません、私好きな人いるんで」

「うわぁぁぁぁぁん!」(涙)

 こうして、私のn回目の告白は、無惨にバッサリと断られたのであった。


 ここは、アメジストの街の冒険者ギルド。

 普段なら、朝から実入りが大きい依頼を求める冒険者たちによって賑わっているのだが、昨日の酒盛りで酔い潰れた冒険者が二日酔いに苦しんでいるのか、今日は人の姿があまり見られない。

 ちゃんと酒を飲む量を調節できたり、そもそも酒を飲まなかった人たちもいただろうが、その人たちは休暇か、既に依頼を受けて街から出たのだろう。

 何はともあれ、酒に酔って失敗する話はどんな場所でもよく聞く話だ。


 それは、私たちのパーティにも当てはまることで、羽目を外したアメリ―が二日酔いでダウンした。

 ネイレスとクリスタは、アメリ―を看病し、ライトは出かけている。

 グロッキー状態になって気持ち悪そうにしているアメリ―は、自分の服の乱れを整える余裕がないようで、服がはだけたまま、みんなの前に出てきた。

 そんな状態のアメリーを見て、異性である自分が側にいたら落ち着かないだろうと言い、出かけて行った。

 二日酔いに効果のある薬を置いて。


 私も看病をしようとしたのだけど、断られた。

 ルナに看病させたら、アメリ―に変な物食べさせそうだかららしい。

 全く、失礼な子たちだ。

 友人から聞いた、トカゲの尻尾を使った薬膳を食べさせるくらいなのに。

 

 そんなわけで、ギルドには私一人だけで来た。

 暇なので、ほとんどの冒険者がクエストに行くか休暇を謳歌しているか、沈んでいるかで普段より閑散としている冒険者ギルドに行ってみると、なんとそこには新しく入ったという私と同い年くらいの可愛らしい受付嬢の姿が!

 これはアタックしなければならないと思い、渾身の告白をした結果、見事に玉砕しましたとさ(涙)。


「こうなったらやけ酒だー!アイナちゃん、リザードブラッドジュース持ってきて!」

「やけ酒なら酒を飲みなよ、そんなゲテモノドリンクじゃなくてさ。でも真昼間から酒飲むよりはましかぁ」

 そんなことを言いながらも冒険者ギルドの酒場の看板娘、アイナちゃんは頼んだものを持ってきてくれる。

 いいじゃん、好きなんだから。


「はいどうぞ。・・・ルナって血生臭いやつよく頼むよね。獣人ってみんなそうなの?」

「ごくっ、ぷはぁ、ご馳走様。で、これは獣人がどうのこうのじゃなくて私だけ。獣人は生肉を食べても腹は壊さないけど焼いたりして食べるし、血を飲むのは私くらいだよ」

「そ、そう。・・・それにしても、あなたがやけ酒ならぬやけ血をするなんてまた女の子に振られたの?」

「そうなんだよ!今日こそは行けると思ったのにダメだったの!何が駄目なのかなぁ」

「いや、当たり前でしょ」

 なぜに!?


「まず、知らない冒険者にいきなり告られて了承する奇特な人物なんていないでしょう」

「そうなの?」

「当たり前だろうが。・・・そもそも、すぐ告るなんてバカのすることでしょ」

「バカって、・・・気持ちを言葉にするのの何が悪かったの?」

「実際、バカみたいな行動でしょう?あなたのその素直さや愚直さは美徳だけど、初対面でお互いのことも知らないのにいきなり告るだなんて恋愛に関してはそれは下策も下策よ。・・・後、いきなりの求婚も重い」

「恋愛って難しいんだね・・・」

「あなたの場合恋愛にすら発展してないわよ。それ以前に」

 アイナちゃんは一度区切ってから言った。


「あんた女じゃん」

 ・・・?

「どゆこと?」

「つまり、あの子、というかほとんどの女はあなたを恋愛対象として見ないってこと」

 バカな!?

「そんなはずっ、だって、愛には性別も関係ないと、百合っていうものもあるって」

「百合?まぁ同性を恋愛の対象として見る人はあんまりいないし、そもそも女同士でいちゃらぶって創作の中だけでしょ。少なくとも私がこの街で生きてきた中で女同士のカップルなんてもの見たことないわよ」

 な、なんということだ、まさか現実はそんな感じだったなんて・・・。


 そ、それでも、

「た、たとえ可能性が低かろうと、僅かでも可能性があるのならあきらめない!」

「はいはい、頑張ってねー。というか、あなた外見いいんだし結婚したいなら適当なイケメン捕まえればいいじゃない」

 は?

「嫌だよ。ルナは女の子が好きなんだよ?だから私は女相手に求婚するんだよ?それに女の子は柔らかいけど男は固いわ臭いわであんまり好きじゃないから女の子と一緒にいたいんだよ?」

「固い?・・・なんか変な言い回しだけど、つまりあんたは男には興味ないわけね」

「前から言ってるじゃん、そうだって。だから、私がどっかの男と恋仲だって言われたくないんだよ」

「・・・なら、あなたはライトさんに対して好きとかそういう感情は抱いてないんだね」


「好きだよ」

「!?は、はああ!?」

「何慌ててるの?もちろんアメリ―も好きだし、ネイレスもクリスタもアイナちゃんもその他もみんな好きだよ」

「え?・・・あ、あー友情的な意味での好きね。そうじゃなくて恋愛的な意味ではどうだって言ってるの!」

「ライトに対して?ただの幼馴染だから全くないし、むしろ忌々しい。あの野郎行く先々で可愛い子に惚れられやがっているし、少しでもそのモテを分けろバカヤロー!」

「そっか、・・・ならまだチャンスはあるか」


 ・・・あぁ、そうだった。

 この子もあのモテ男のことが好きだったんだ。

 確か、暴漢に路地裏に連れ込まれそうになった時に助けてもらって、その後に犯罪組織と手を組んだ暴漢どもがアイナちゃんを誘拐して、それをライトが助けたんだっけ?

 私のいないところで!

 ちなみに、私はアイナちゃんと初めて会った時に求婚したけど、見事に振られてます。(涙)


 心の中で涙を流していると、冒険者ギルドの扉が開かれた。

 入ってきたのは、今話題にしていたモテ男野郎のライトだ。

 ライトはそのまま受付へと行き、我らがパーティ「黄金の空」の専属受付嬢であるアンジェリカさんと何かを話している。

 私はアイナちゃんと一緒に聞き耳を立てる。


「すみません、この手紙の配達の手続きをお願いします」

「分かりました。それにしてもライトさんが手紙とは珍しいですね。誰に送るんですか?」

「それが、偶然知り会ったとある貴族のご令嬢です。冒険者に興味があるらしく、俺にどんな冒険をしてきたのかを手紙で送ってくれって頼まれたんですよ」

「・・・それってただの口実・・・いえ、何でもありません。それでは手紙をお預かりしますね、たらし野郎様」

「たらし野郎様!?」

 そんな会話が聞こえてきた。


「「・・・」」

「ねぇルナ、あなたは知ってたの?」

「令嬢の子の方が一度でもいいから一緒に冒険してみたいっていってたけど、手紙のやり取りしてるのは初めて知った」

「「・・・」」

 

 ライトから顔を背けてすぐに不満気な表情を浮かばせるライトに惚の字のベテラン受付嬢は、手紙を持って奥に入っていく。

 すると、先ほど私が声をかけた新人の女の子がライトを見ると近寄り、話しかける。


「ライトさん、お久しぶりです!」

「君は・・・あの時の!」

「はい、あの時、ライトさんに助けていただいたトラコ村のアンです。あの件はライトさんのおかげで助かりました。本当にありがとうございます!」

「それは良かった。アンちゃんの家族や村の人たちは元気?」

「みんな、あれ以来何事もなく過ごせています。これもライトさんのおかげです!」

「それは良かった。それにしても、冒険者ギルドに就職したんだな」

「あの一件以来、冒険者の手助けをしたいと思いまして。でも、ライトさんがいる街の冒険者ギルドに務めることができてうれしいです。これからしっかりとライトさんをサポートしますね」

「ありがとう。その時はお願いするよ」

「はい!あ、今日のお昼は空いてますか?良ければあの時のお礼を」

 聞き耳を止める。


「「・・・」」

「私も何か飲もうかな」

「そっか」

 私はこの世の不条理と失恋を、アイナちゃんは多分恋のライバルの多さを嘆きながら、2人で店長(アックス52歳男妻子持ち元Bランク冒険者)特性ドリンクを一気飲みするのだった。


「「バカヤロオオオオオーッ!!」」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ≪トカゲの血・・・さすがに適切な処理をしている≫


 作者の腕はとても未熟です。

 何回も下見をして投稿した話でも、気に入らない箇所があったら改稿しまくります。

 もし、前の文と違うなと思った場所があったとしても、また作者がやらかしたなと思いながら寛容な心を持って見てくださると助かります。

 物語の展開がまるっきり変わることは多分無いので安心してください。

 その分、この作品を楽しんで見てもらえるように頑張りますのでどうかご容赦を。

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