【長編】エミールとライアンの「なんでもお願い叶えます!」〜君が創り出した物語編〜

伊吹 ハナ

意外な人物からの依頼

1お城へ訪問


 

『──最新情報です。本日早朝、国家刑務所に奇襲が入り犯罪者達が世に放たれてしまった模様です。

 

 中にはノーマルの他に魔法を扱う人種も逃走してしまったため、政府は国民の命を守るべく一般国民は本日は通勤、又は通学等の外出を禁止すると先程発表されました。

 

 皆様、くれぐれも玄関や窓の戸締りを再度確認し外からの侵入を防ぐよう徹底をお願いいたします。


 余裕のあるウィッチャーはノーマルが暮らす家の周りにバリアを張ってください。一人でも犠牲者を少なくするためです。

 ご協力宜しくお願いいたします。

 ……繰り返します。本日早朝──』


 

「まーじで、この世の終わりかもな……」

 

 目が覚めれば空に警察が飛び回り朝からずっと騒がしかった。隣の部屋からは幼いながらに国の危うさに気づいてるのか先程から子供が泣いている声が聞こえる。


 親も大変だなあ、と余所事に思いながらエミール──ノーマル・個人経営の万屋──はいつも通りにコーヒーを注いでテレビの画面から映し出される報道をぼんやり眺めていた。


 世の中がこんな状況ならしばらくは依頼もないだろう。


 数日間はお金が入ってこない。さて、食料の調達や節約をどうしようか……と考え始めた時、エミールの背後にポゥ……と魔法陣が浮かび上がる。

 彼が振り返るよりも先に光る円の中から一人の男が飛び出してきた。

 

「エミール! 仕事だ! 仕事の依頼が来たんだ!」

「……ライアン。いつもいきなり転移魔法で僕の家に侵入するのはやめてくれと言っているだろう。まあ、今日みたいな状況なら致し方ないところもあるが……」

「悪い悪い、いつもの癖で! というか、俺が簡単に侵入出来たってことは運悪ければ犯人に侵入されてたってことじゃ⁉︎ 危な! ……と言うことで家の周りにトラップを張っておきました。それから周りのご近所さんも!」

「……助かるよ。ところで、依頼は何故君の元に? 普通なら経営してる僕の元に訪ねに来るか困難な場合なら手紙が来る筈なのに…」

「ああ。きっと君も驚くよ。依頼者の名前に。きっとこの状況的に俺に届けた方が情報が早く回ると思ったんだろう」

 

 ライアンから依頼の手紙を受け取って送り主の名前を見──、まさかと目を見開いて相棒をみる。「な!? 驚いただろ」と言うようにライアンはニヒルに口角を上げる。

 

「君はどうしてこんなに落ち着いていられるんだい」

「勿論驚いたさ! でもさ…ワクワクしないか?」

「全く君は…」

 

 呆れながらも苦笑し、立ち上がるエミールに「そう来なくっちゃ!」とライアンは嬉しそうに親指を立てた。


 


 エミールとライアンの「なんでもお願い叶えます!」〜君が創り出した物語編〜



 

 依頼の手紙に書かれている場所を頼りにエミールとライアンは目的地の場所へ向かう。最も、今回に関しては地図を見るまでもなかった。

 

「いやぁ、まさかこの国の王様直々の依頼とか。俺たちそんなに今まで人生で徳を積んできましたっけぇ?」

「もしかしたら僕たちが経営している万屋がいよいよ目に余ったのかもしれない。最近はほら、魔物退治とかもしてきたじゃないか。本当は僕たちの仕事ではなく国のガーディアンたちの仕事だったのかもしれないし」

「え〜? でも俺たち頼まれたことをちゃんとこなしてきただけじゃん〜」

「とにかく。王様からのお便りだ。まずはきっちりと挨拶しないと」

 

 そんな会話をしながらエミールはライアンが操縦する箒の後ろに乗って上空から街を見下ろす。

 ライアンの転移魔法は一度本人が来た場所ではないと転移出来ないようになっているため今回は箒に乗って移動していた。手紙には丁寧に住所も書かれていたが、外に出れば必ず目にする大きな城でしかないためもうポケットの中にしまっていた。


 ライアンとの付き合いも長くなっている。

 どんな出会いだっただろうか……確かエミールがライアンに声をかけたはずだ。はて、周りに人々はいるはずなのにどうしてライアンに声をかけたのだろう……と過去を振り返っていれば「おっと。門がもう目の前だ」とライアンが言う。


「ようし、到着だ〜! 降下するからしっかり掴まってておけよ〜」

「ああ」

 

 思い出す前に城の前に到着したようだ。降下する感覚にはいつまで経っても慣れず、目の前の背中にしがみつく。初めの方こそ揶揄われたがライアンももう何も突っ込むことはなかった。

 

 着地しライアンに礼を言い、目の前に立ち塞がる大きな門を見上げる。

 

「なあエミール」

「なんだ」

「…王様、本当に俺たちに依頼したのかな」

「それは僕も思った」

「だよな? あー、なんかお腹痛くなってきた…」

「君はまた…」

 

 お調子者のくせに変にプレッシャーに弱い相棒に呆れつつ、門をノックした。護衛の人々がエミールたちの顔を確認することもなく門はギギィ…と音を響かせながら開いていく。

 

『万屋のエミール様、ライアン様。訪問要件は伺っております。どうぞ中へお入りください』

 

 どこからか二人を監視している護衛の声が聞こえる。名前もしっかり呼ばれた。ちゃんと招かれている。大きく深呼吸をし「行くぞ、ライアン」と足を踏み出す。「待ってよ〜!」とライアンも腹を押さえながら着いていく。

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