異次元へのフライト【中編】

鈴森すずもりは機内サービスなどを行いつつ、42-Cの座席の乗客の動向に目を配った。

座っていた老人は何処から来たのか。そして何処に消えたのか。今座っている男性は誰なのか。

考えれば考える程、不気味に感じる。

鈴森はふと昔見た、ジョディ・フォスター主演の『フライトプラン』という映画を思い出していた。映画は、飛行中の航空機内で子供が消え、その子供を探すという内容だが、今回のように突如として乗客が出現するなど、実際に起こるはずがない。

「かなり気にしているようね」

後ろから橋本はしもとに声をかけられ、鈴森は振り返る。

「すみません。どうしても気になっちゃって。もしかして霊的な何かかなとか考えちゃったんです。飛行している航空機内に入り込むなんか、イーサン・ハントでもない限り、普通の人間には無理かなって」

鈴森は包み隠さず話す。

「そうね。だけど今は他のお客様も乗っていらっしゃるから、過剰に意識するのは良くないわ。努めて冷静にね。私たち客室乗務員は、どんな非常事態でも慌てちゃ駄目なの」

橋本は優しく諭すように言う。

「はい。分かりました。気をつけます。あっ・・・」

鈴森は42-Cに座っていた男性が立ち上がり、トイレに入っていくのを確認した。

「今トイレに入ったお客様が、42-Cに座っているのね。見た感じ幽霊には見えないわね」

橋本もその男性がトイレに入るのを見たようだ。

「橋本さん、あのお客様が、トイレから出たら、どの席に戻るかだけ見てみませんか?それだけ、お願いします」

鈴森は橋本に提案する。

「・・・仕方ないわね。でもその後は、ちゃんと業務に戻るのよ」

「はい」

鈴森と橋本はトイレ近くで作業をしつつ、男性がトイレから出てくるのを待つ。

しかし8分以上過ぎても、男性は一向に出てこない。

「声を掛けるべきでしょうか?」

鈴森は橋本に小さい声でたずねる。

「確かに、ご気分が悪くなってる可能性もあるわね。あと1分待ってみましょう。そうしたら私が声を掛けてみるわ」

そのまま1分が経過したので、橋本は鈴森の顔を見て無言で頷くと、トイレのドアを軽くノックする。

だが反応は無い。

「お客様、どうかされましたか?ご気分が悪いようでしたら仰ってください」

橋本はもう一度ノックをしながら、男性に話し掛ける。

しかし、やはり返事が返ってくる事はなかった。

その時、鈴森はある事に気がつく。

「橋本さん、トイレの鍵が開いてます」

橋本はドアに手を掛け、ゆっくりと開ける。

「お客様、失礼致しま・・・えっ?そんな・・・」

「橋本さん、どうしたんですか?」

鈴森は橋本にたずねる。

「・・・お客様が居ないわ」

橋本は鈴森の方へ振り向くと、青ざめた顔をしながら言った。

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