第20話 脱獄

 数ヶ月後、片桐拓也は拘置所の冷たいコンクリートの壁の中で静かに時間を過ごしていた。彼の心の中には、黒田への復讐の火が絶えず燃え続けていた。自分を捕らえた黒田の冷徹な眼差しが、彼の記憶に焼き付いて離れない。


 ある夜、片桐は隣の囚人から彼が計画している脱獄の話を耳にした。その囚人は、塀の外に繋がる秘密の通路を知っているという。片桐はチャンスだと直感し、彼に協力する事を決めた。


 数週間後、二人は夜間点呼の際、薄暗い監房内で静かに動き出した。囚人は片桐に、通路の存在を詳しく説明した。口を閉ざし、周囲に気を配りながら、片桐はその計画を実行に移す準備を整えた。


 ある月のない夜、二人はついに脱獄を決行した。警備の目を巧みにかわし、通路へと進んでいく。片桐は心臓の音が高鳴るのを感じながら、一歩一歩を踏みしめた。通路の先には自由が待っている。やがて二人は、目的の地点までたどり着いた。


 しかし、運命のいたずらなのか、出口は警備員が見張っている場所だった。片桐は迷わず、隣の囚人に向かって囁いた。「俺が運を作る。お前はその隙に逃げろ」。


 囚人は一瞬驚いた表情を見せたが、片桐の決意を感じ取り、頷いた。片桐は自ら見張りに向かって走り出した。警備員が彼を捕まえようとした瞬間、片桐は体をひねり、その場で抵抗した。混乱が生じ、看守たちが急いで片桐の方を振り向く。


 その隙に、隣の囚人は音も立てずに逃げ出した。片桐は自らの逮捕を覚悟し、一人残されたが、逃げた囚人が外に出たことで、彼の計画に希望が紡がれた。


 警備員たちが片桐に目を戻すと、彼は冷静に微笑み、言った。「俺の復讐はまだ終わらない。黒田、お前を必ず見つける」


 数日後、片桐は警備員の一人から「脱獄させるから、俺の弟を殺した藤堂を殺してほしい」と、相談を持ちかけられた。

 警備員の弟は野球選手だったが、藤堂の投げた死球に当たり死んだ。藤堂は罪には問われなかった。警備員は毎日、藤堂を殺すことを考えていた。

 

 さらに数日後、片桐は地下に隠れている間、脱獄に成功した囚人からの情報を元に、黒田の行動を追跡し始めた。彼は黒田が留置所から出て以来、自身の捜査活動で忙しく動いていることを知った。


 今や片桐は、再び夜の街に潜んでいた。彼の中で復讐心はますます強くなり、黒田への復讐心は一層燃え上がっていた。そして彼は、自分の復讐を果たす機会が再び訪れることを信じていた。

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