第2話 防刃傘
黒田は防刃傘を手に取り、片桐家の洋館を後にした。彼の脳裏には、先ほどの殺し屋の言葉が残っていた。「片桐家の秘密を知る者は、闇に葬られる」――この一言が、前述談として黒田の心に暗い影を落としていた。
その夜、黒田は自分の事務所で過去の調査記録を振り返っていた。前述談にあるように、片桐家の関係者には幾度も不審死や行方不明が報告されていたのだ。しかし、全てが事故や自殺と処理され、真相は誰にも明かされていなかった。
「一族の闇を暴くことが、俺の使命だ」と黒田は独り言ち、決意を新たにした。
その夜、黒田は薄暗い事務所で、片桐家に関する資料を広げながら、数々の疑惑に再び目を通していた。関係者の死因には不可解な点が多く、怪しまれることなく処理されていることが異様だった。片桐家の闇がどこまで深く浸透しているのか、黒田にはまだ掴みきれていなかったが、そこにある確かな悪意の存在を感じていた。
ふと、防刃傘に視線が移る。片桐の部下から無言で渡されたこの傘が、ただの防具に留まらないものであることを黒田はすぐに悟っていた。彼は慎重に傘を調べ、柄の部分を押してみると、驚くべきことに内部に小さなメモリーチップが隠されているのを発見した。
「これは…?」
急いで事務所のパソコンにメモリーチップを差し込むと、映し出されたのは片桐家の隠蔽された取引記録と、過去の暗殺依頼の詳細だった。各地で起きた数々の不審死が、片桐家の指示によるものであったことが記録されている。黒田の目は鋭く光り、これまでの疑惑が現実であることを確信した。
しかし、ファイルの最後には一行、警告のメッセージが表示されていた。
「真実を知った者には、片桐家の影が迫る――」
その瞬間、黒田の携帯が静かに鳴り始めた。画面には「非通知」の文字が浮かんでいる。彼は通話ボタンを押すか迷ったが、意を決して応答した。
「もしもし、黒田さんですか?」
低く冷静な声が電話口から響く。その声は、片桐の忠実な部下として名を知られた、冷酷無比の殺し屋・片桐拓也だった。
「私たちの秘密に触れた以上、あなたには選択の余地がない。今すぐそのデータを消去しなければ…」
「それができるかどうかは、あなた次第だな」と黒田は返し、平然と続けた。「俺も覚悟はできている。だが、片桐家の闇を暴くことができるならば、この命に代えてでも――」
電話の向こうで片桐がわずかに息を飲んだような気配がした。そして、不敵な笑みを浮かべた声で片桐が告げる。
「では、いずれ会うことになるだろう。せいぜい楽しみにしておけ」
電話が切れ、事務所に重苦しい静寂が戻る。黒田は覚悟を決め、防刃傘を手にして深呼吸をした。彼にとって、片桐家との闘いがいよいよ本格的に幕を開けたのだ。
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