第2話 腕利のガンマン

(まずい、兵士だ)

 とトマスは思った。そして不運にも電報の光が頭上を通過した。

 せめてもの抵抗、というのか、トマスはその文を読んだ。

「コンシュウノシシャ、19ニン……。」

 あまりいい知らせではなかった。トマスは死を覚悟しながら電柱にへばりついた。


 足音が近づいてきた。トン、トン、カツ……

(止まった!)

 トマスは周囲を見渡した。行き止まりとは真反対——即ち、左側——で目が止まった。

 


 投降したほうがいいのだろうか?

 トマスは悩んだ。

 それでも隠れていると、ガンマンはトマスの方を向いた。

 ツカツカと歩き出すガンマン。俯くトマス。


 時間は、スローにはならなかった。


 カツカツカツ……足音が近づく。ガンマンが銃を構えた。装填のカチャリという音。トリガーフィンガーに人差し指をかけている。もう確実に位置は特定された。トマスは、死ぬまであと何秒かな——と、涙を堪えながら考えた。

 

——バン!


 倒れるトマス。彼の死体に花も何もなく、ただ盆栽が横たわっているだけ……


 というのはトマスの幻覚だった。実際にはあのバンという音の後、銃弾は電柱に当たり、跳弾し、埃を被った車道に着弾、着火もせず、虚しく、線香花火の最期のようにしぼんでいった……

 ガンマンがトマスの方を向いた。トマスは懸命に走った。リヴォルバーではなかったので一発ずつしか撃てない。装填の間を見計らい、トマスは走った。

 ここで、父と会えないまま死ぬのは悲しい。

 その時、「大丈夫か?」と青年の声が落ちてきた。ケサランパサランのように、ふわふわと。

 しかし、トマスは吐き気を催して、その声が聞こえなかったが、若い青年の声に気づいて、「はい……」と答える。

「僕と走ろう!」青年はトマスの右手を繋いで、トマスを引き摺るように走った。


 やがて、後ろから、「ちくしょう! さっきの青年、どこいったっ」という声が飛んできた。青年はトマスを引き摺るのをやめて、もう一度「大丈夫ですか?」と聞いた。

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スローライフは送れない 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel

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