第15話 すれ違う想い

土曜日の朝、仁と翔は街に繰り出し、写真撮影を兼ねて一日遊ぶことにした。久々の外出に、翔はカメラを片手にワクワクしながら仁の姿を撮り始める。


まずはボウリング場へ向かった二人。仁はやる気満々でボールを構え、ストライクを狙う姿を見せていた。翔はその一瞬をカメラに収めようと構えたが、仁が投げると同時に「よっしゃ!」と歓声を上げるほど調子が良く、次々とピンが倒れる。


「すごいな、仁。ボウリングのプロみたいだ」

「翔、負けないようにしっかり投げろよ」と仁は得意げに笑う。二人で笑い合いながら、ピンを倒す度にハイタッチをして盛り上がった。


その後、カラオケに移動した二人は、それぞれの好きな曲を歌い合い、テンションが最高潮に。仁がマイクを握り、熱唱する姿を翔は笑いながら撮影した。


「ほら、もっとちゃんと盛り上がってくれよ」

「カメラ越しだと本気で応援してるの、わかりづらいかもね」

翔が笑いながら応じると、仁も照れくさそうにしながら微笑んだ。


さらに二人はゲームセンターに立ち寄り、クレーンゲームやシューティングゲームなどを一緒に楽しんだ。仁が真剣な顔でクレーンを操作してぬいぐるみを狙う姿や、ゲームの合間に笑顔を見せる瞬間を、翔は自然とシャッターに収め続けた。


ふと、仁がクレーンで取った小さなぬいぐるみを手に取り、「ほら、こういうのも求められてるんだろ?」と軽く言いながら、翔の手を握った。


「えっ?」突然の手の温もりに翔は驚き、思わずカメラを構え直した。

「写真集に必要な“デート感”だよ、わかる?」と仁が笑い、翔は少し照れたように笑い返した。


「撮りづらいよ、こういうのは…」翔は冗談ぽく言いながら、自然と仁の手の温もりを感じていた。


街を歩きながら、二人は小さな雑貨屋に立ち寄った。カラフルな小物やアクセサリーが並ぶ中、お揃いのキーホルダーが目に入った。仁はそれを手に取り、何気なく翔に差し出した。


「ほら、これ、お揃いでどうだ?」


翔は一瞬戸惑いながらも、仁の提案が嬉しく、頷きながら「いいね」と答えた。そして二人は、同じキーホルダーを買い、それぞれのカバンにつけることにした。


二人が手を繋いで楽しそうに街を歩く姿を、偶然見かけてしまった陽介。ふと視線を向けた先で、翔が見せる柔らかな笑顔と、二人が互いに手を繋いでいるのを見たとき、陽介の胸に痛みが走った。


(…まさか、二人が付き合ってる?)


陽介の心は揺れ、どこか釈然としない思いが渦巻いた。彼はそのまま足早に立ち去り、動揺を抱えたまま部活に向かった。


その後、部活に戻った陽介は、気持ちの整理がつかないまま、ボールを蹴り出した。だが、心の中で引っかかる二人の姿がどうしても消えない。ミスをしてしまい、チームメイトからも「どうしたんだよ、今日、調子悪いぞ」と心配される始末だった。


(本当に、付き合ってるのか…?それとも…)


不安とモヤモヤが募るばかりで、確かめずにはいられない。陽介はその足で、放課後に翔の家を訪れることにした。


インターホンを押すと、翔の母親が出てきた。「あら、陽介くん。翔なら今、仁くんの家に住んでるのよ」


その言葉を聞いた瞬間、陽介は一瞬頭が真っ白になった。翔が仁の家に住んでいる――それは、もう二人の関係がただの友達ではないことを示しているように思えた。


(やっぱり、そうなんだ…)


陽介は、確信に近い思いでその場を後にした。自分がどこに向かって歩いているのかもわからないまま、翔への想いが心の奥で静かに痛むのを感じていた。


翌日、学校で翔はいつも通り陽介に声をかけようとしたが、陽介は視線を逸らし、少し距離を取るような態度を見せた。普段は気さくに話しかけてくれる陽介が、今日は冷たく、翔を避けるかのように立ち去っていく。


(…どうしたんだ、陽介?)


翔は心の中で疑問を抱えながら、なぜ避けられているのか分からずにいた。少し寂しさと不安を感じながらも、声をかけることができずにその場に立ち尽くしていた。


そんな二人の様子を、少し離れた場所から仁が無言で見つめていた。

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