第13話 君とひとつ屋根の下
仁の写真集のテーマが「私生活」に決まり、香織からその詳細を告げられた翔は、思いがけない提案に驚きを隠せなかった。
「しばらくの間、仁くんの生活に密着して、普段の姿をカメラに収めてほしいって話になってるの」
仁の日常を撮影するために、香織が勧めたのは住み込みでの撮影だった。翔は思わず「住み込みで?」と声を上げ、目を見開いた。
その夜、仁から直接話を聞こうと、翔は彼の家に向かうことになった。仁が住む高級タワーマンションのエントランスは広々としており、どこか冷たい雰囲気を醸し出している。翔はエレベーターで高層階まで上がり、仁の部屋に通された。
「住み込みで…本当に?」翔が確認すると、仁はごく自然な調子で答えた。
「ああ。俺ん家なら、誰の目も気にしないで撮影できるだろ?」
仁の提案に、翔はしばらく言葉を失った。普段からカメラを向けることはあっても、住み込みで彼の生活に入り込むなんて、想像もしていなかった。
「さすがに、それは…」翔は戸惑いながら視線を逸らしたが、仁は真剣な表情で言葉を続けた。
「俺の素の姿を撮れるのは、翔しかいないって思ってる。でも、そうしないと、自然な日常を撮るのは難しいだろ?」
仁の真剣な眼差しに、翔は次第に圧倒されていった。確かに、普段の彼を撮影するには、より密接な時間を共有する必要があるのかもしれない。少しの沈黙の後、翔は小さく息をついて頷いた。
「…わかった。住み込んで撮影させてもらうよ」
仁の顔には、ほっとしたような安堵の色が浮かんでいた。
こうして、翔は仁の家にしばらくの間住み込み、写真撮影をすることになった。仁の両親は多忙で、普段は海外にいることが多く、広々としたマンションには仁が一人で暮らしているという。
新しい生活が始まり、カメラを構えるたびに仁の何気ない日常がレンズに収まっていく。少しずつ、二人の距離が近づき、特別な時間が流れ始めていた。
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