第11話 真っ直ぐな告白

夏の終わりが近づくころ、翔はテストを終えて解放感を感じていた。今回のテストは手応えも良く、教えてもらったおかげで苦手だった分野も克服できた。試験勉強を支えてくれた陽介と仁の顔が自然と浮かび、心の中で感謝の気持ちをかみしめながら、校舎の廊下を歩いていた。


放課後の廊下には、やわらかい夕日が差し込み、窓から吹き込む涼しい風が夏の名残を感じさせていた。そんな中、翔はふと先に進む視線の先に見覚えのある後ろ姿を見つけた。仁が、廊下の先で女子生徒と向かい合っているのが目に入った。


(仁…?)


何気なく足を止め、その様子を見つめていると、緊張した表情の女子生徒が仁に何かを伝え始めた。彼女の口元がかすかに動き、「好きです…」という言葉が、遠く離れた翔の耳にもはっきりと響くように感じられた。


(…仁が、告白されてる?)


胸が急に締めつけられるような感覚に襲われ、翔は驚きとともにその場を立ち去った。何がどうなっているのか頭の中で整理がつかないまま、心のどこかで静かにざわめく不安を抱えて足早に歩いていた。


それから数日、翔の様子がおかしいことに、仁はすぐに気づいていた。これまで自然に交わしていた視線や言葉がどこかぎこちなくなり、翔が無意識に仁を避けているように感じられる。ある日の放課後、仁は思い切って翔に話しかけようと近づいた。


「翔、最近…なんか、様子が変じゃないか?」


仁の問いかけに、翔は少し驚いたように顔を上げ、すぐに視線をそらした。仁の鋭い視線が、まるで心の奥を見透かしているように感じ、答えに詰まってしまう。


「別に、そんなことないけど…」と、翔はぎこちなく笑って返したが、その表情は明らかに戸惑いを隠しきれていなかった。


仁はその様子を見て、何か言いたそうにしたが、無理に追及することはせず、ただ静かに翔を見つめ続けた。けれど、翔が次第に歩を進め、仁との距離を取ろうとするのを見て、彼は胸の奥で静かな不安を覚えた。


その日の帰り道、陽介が真剣な表情で翔に問いかけた。


「翔、最近なんか変だぞ。何かあったのか?」


陽介の真剣な眼差しに、翔は一瞬戸惑いながらも、小さな声で、仁が告白されている場面を目撃してしまったことを打ち明けた。


「…それを見て、なんだか、ショックでさ…」


翔の言葉に、陽介の目がわずかに鋭さを帯びた。しばらく無言のまま、その言葉を噛みしめるようにしていた陽介が、静かな声で切り出した。


「翔…お前、仁のことが好きなのか?」


突然の問いに、翔は驚き、どう返事をしていいのか言葉に詰まった。自分でもこの感情が何なのかよくわからず、ただ、仁を思うたびに心が落ち着かない。ただ、陽介の問いに対して曖昧にしか答えられなかった。


「…わからない。でも、仁が誰かと…変な気持ちになるんだ。」


陽介はしばらく沈黙し、翔の言葉を受け止めた後、意を決したように口を開いた。


「俺は、翔が好きだよ。」


放課後の校舎に響くその一言は、まっすぐで、決意のこもったものであった。陽介の目には迷いがなく、まっすぐに翔を見つめている。


「お前がどう思ってるか、わからなくてもいい。ただ、俺は翔が好きなんだ。」


夕暮れに染まる廊下に立ち尽くし、翔は陽介の想いの強さに胸が揺さぶられるのを感じていた。友人だと思っていた陽介からの告白が、彼の心に静かに染み込んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る