第10話 三人での勉強会
夏の夕暮れが近づく放課後、翔の家で3人の勉強会が始まった。陽介と仁が並んで座り、翔が机を囲むように3人で教科書やノートを広げている。窓の外からは赤みを帯びた柔らかな光が差し込み、部屋の隅に静かな影を落としていた。蝉の鳴き声が遠くに聞こえ、夏の終わりを感じさせる空気が漂っている。
時間が経つと、翔がふと立ち上がり、「ちょっと飲み物取ってくるね」と言って部屋を出ていった。陽介と仁の二人きりになり、部屋には一瞬静寂が訪れた。遠くで冷蔵庫の扉が開く音がかすかに聞こえる。
仁は視線を教科書に落としたまま静かにページをめくっていたが、ふと顔を上げると、陽介が真剣な表情で自分を見つめていることに気づいた。
陽介はしばらく目線を彷徨わせていたが、やがて意を決したように仁を見据え、低い声で切り出した。
「仁、お前…翔のこと、好きなんだろ?」
不意の問いに、仁の体がわずかにこわばる。窓から差し込む夕日の光が陽介の横顔を照らし、その瞳の中に揺るぎない決意が浮かんでいた。仁はしばらく言葉に詰まり、やがて小さく息をつきながら頷いた。
「…ああ、そうだ。俺は、翔が好きだ。」
自分の想いを初めて口に出したことで、心がどこか揺らいでいるのを感じた。仁の視線はかすかに伏せられ、夕焼けに染まる彼の顔にほんの少しの影が落ちている。
陽介は仁の答えに一度静かに目を閉じ、そして再び開くと、力強い眼差しで仁を見つめ返した。
「俺も、翔に告白しようと思ってる。」
その言葉は、夕暮れの空気に染み入るように静かに響き、仁は驚きと戸惑いの入り混じった表情で陽介を見つめた。陽介の横顔には、言葉にできないほどの決意と誠実さが滲んでおり、その一言がただの気まぐれや冗談ではないことを物語っていた。
「翔が誰かと一緒にいるなら、それが俺であってほしい。だから…正直に気持ちを伝えるつもりだ。」
陽介の言葉は、どこか温かさを含みながらも、まっすぐな意志を感じさせた。仁は心の中で何かがざわめくのを感じながらも、その場で陽介の覚悟を受け止めざるを得なかった。
そのとき、廊下からかすかに足音が近づき、部屋のドアが静かに開いた。飲み物を手にした翔がにこやかに戻ってきた。
「お待たせ!さあ、また勉強頑張ろう!」
いつも通りの明るい笑顔で戻ってきた翔に、陽介と仁はそれぞれ複雑な感情を抱えながら微笑み返した。夕暮れの部屋に、二人の交わした静かな約束だけが余韻として残り、3人の関係が変わり始めていることを、翔だけがまだ気づいていなかった。
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