第8話 試合
ある日の放課後、陽介が翔のもとにやってきた。「なあ、今度の試合、応援に来てくれないか?」サッカー部の試合で、翔にとっても特別な存在である陽介が活躍する場面を見られる機会。翔は快く応援に行くことを約束した。
試合当日、翔は応援席で陽介を見つけ、手を振った。グラウンドでは陽介が仲間とともにウォーミングアップをしており、その真剣な眼差しと、いつもの爽やかな笑顔とは違う引き締まった表情に、翔は自然と心を奪われていた。
試合が始まると、白熱した展開が続き、両チームが一進一退の攻防を繰り広げる。同点のまま試合は進み、どちらも一歩も譲らない緊迫感に会場全体が包まれていた。応援席の翔も、手に汗を握りながら陽介の姿を目で追いかけた。
そして迎えたラストチャンス――陽介のチームがフリーキックを得た。ゴールが決まれば、逆転で勝利となる大切な場面。陽介はボールをセットし、深呼吸をした後、鋭い目つきでゴールを見据えた。
翔も無意識のうちに息を飲み、心の中で「決まれ…!」と祈るように願った。
陽介は力強くボールを蹴った。しかし、わずかに角度がずれてしまい、ボールはゴールポストをかすめて大きく外れてしまった。
結果、試合はそのまま終了し、陽介のチームは惜しくも敗北を喫した。グラウンドに肩を落とす陽介だったが、すぐにチームメイトたちが駆け寄り、「ドンマイ、陽介」「次があるさ」と励ましの声をかけてくれた。
陽介は悔しそうにしながらも、チームメイトの優しさに救われるように笑顔を見せた。応援席から見ていた翔も、彼のその姿にじんわりとした感動を覚え、胸が熱くなった。
試合後、翔は陽介に近づき、少し照れくさそうに微笑んで言った。
「惜しかったけど…負けちゃったけど、陽介、すごくかっこよかったよ。」
翔の言葉に、陽介は一瞬驚いたように翔を見つめたが、やがてほっとしたように笑顔を見せ、彼の肩をポンと叩いた。
「ありがとな、翔。お前が応援に来てくれてたおかげで、最後まで頑張れたよ。」
二人の間に、ほっとした空気が流れ、試合後の悔しさも少しずつ和らいでいくのを感じた。翔は、改めて陽介の友情の強さと、自分が彼を支えられたことの喜びを感じていた。
試合後、翔は仁にも試合のことを報告した。聞き終えた仁は微笑みながら、「良かったじゃないか」と翔に言ったが、その目には少しだけ嫉妬の色が混じっていたことに、翔は気づかなかった。
翔は無自覚に、陽介の応援と仁との時間の間で心を揺らしながら、二人の間で特別な絆を深めていく――気づかぬうちに、自分の想いをファインダー越しに探していた。
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