第6話 心の距離

夏休みが終わりに近づき、学校が再開した。けれど、翔と仁の間にはどこかぎこちない空気が流れていた。ふとした瞬間に、あのキスの出来事が翔の心に蘇り、二人が一緒にいると、言葉にしない緊張感が漂うようになっていた。


ある日の放課後、撮影をするため仁の所属事務所に訪れた翔だったが、どこかそわそわしてしまう。仁もいつもより無口で、二人の間に沈黙が増えていた。その様子に気づいたのは、仁のマネージャーである香織だった。


撮影の準備を整えながら、香織は二人のぎこちない雰囲気に気づき、ふと考え込んだ。そして、撮影の合間に仁を呼び出し、静かに話しかけた。


「ねえ、仁くん。翔くんとの間、何かあったんじゃない?」


仁は一瞬驚いたように香織を見たが、やがて目をそらし、困ったような表情を浮かべた。


「何もないわけじゃない…でも、自分でもどうしたらいいのかよくわからなくて。」


香織はそれを聞き、優しく微笑みながら仁の肩を叩いた。「大丈夫よ。ちゃんと話し合う時間を作ってあげるから、逃げないで、向き合ってみたら?」


香織は二人が話せるようにと、撮影の合間にさりげなく二人きりにしてくれた。仁と翔は気まずそうに顔を見合わせたが、やがて仁が口を開いた。


「翔、あの…この間のこと、気にしてるのか?」


翔は少しうつむき、何と答えていいかわからず、しばらく沈黙したまま。仁も言葉を探しながら、静かに続けた。


「俺、びっくりさせて悪かった。でも…なんだか、あの時はつい気持ちが抑えられなくなって…。」


仁の素直な言葉に、翔の心の中のわだかまりが少しずつ溶けていくのを感じた。そして、翔も顔を上げ、ぎこちなく微笑みながら答えた。


「俺も…実は、少し嬉しかったよ。でも、どうしていいかわからなくて。」


二人は少し照れくさそうに見つめ合いながらも、お互いの気持ちを確かめ合ったことで、再び静かな絆が戻ってきたのを感じた。

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