第3話 専属カメラマンへの誘い

夏休みに入って間もないある日、翔のもとに仁からメッセージが届いた。「話があるから、少し時間をくれないか?」と。突然の誘いに少し驚きつつも、翔は待ち合わせ場所のカフェへ向かった。


カフェのテラス席で待っていた仁は、いつも通りのリラックスした笑顔で手を振った。二人が簡単な挨拶を交わすと、仁は少し真剣な表情で切り出した。


「実はさ、翔に頼みたいことがあるんだ。」


「俺に?何でも言ってよ。」


仁は言葉を選びながら話し始めた。「最近、君が撮ってくれた俺の写真をSNSに載せてるだろ?あれ、すごく評判が良くてさ。普段の俺が見れるって、意外と好評なんだ。」


翔はその反響を聞いて少し照れくさく感じながらも、嬉しさが込み上げてきた。「そうなんだ…仁のいつもの姿が、みんなに伝わってるんだな。」


「そうなんだよ。だからさ…もしよかったら、俺の専属カメラマンになってくれないか?プロの撮影とは別で、翔にしか撮れない俺の姿を、もっと残してほしいんだ。」


仁の言葉に、翔は驚きを隠せなかった。これまで学校で気ままに撮ってきた写真が、まさか専属カメラマンの依頼に繋がるなんて思いもしなかったからだ。


「俺でいいのか?」翔は少し不安げに聞いた。


仁は笑って頷いた。「翔だからいいんだよ。雑誌の撮影の時とは違って、翔が撮ると自然な俺が写ってる。それが嬉しいんだ。」


翔はその言葉に背中を押されるような気持ちになり、ゆっくりと頷いた。「わかった。俺も、仁の素顔をもっと撮ってみたいと思ってたから…よろしく頼むよ。」


数日後、仁のモデル撮影現場にて、翔は初めて専属カメラマンとして彼に同行することになった。スタジオに入ると、そこは照明やカメラが並び、緊張感が漂うプロの現場だった。


「ここで俺を撮ってくれ。プロのカメラマンの撮影の合間でいいからさ、翔の目で見た俺を、しっかり残してほしいんだ。」


仁がそう言うと、翔はカメラを構えた。プロのカメラマンが照明をセットし、仁は一瞬で雑誌の中で見るようなクールな表情に切り替わった。堂々とした立ち姿、流れるように決まるポーズ。その自信に満ちた雰囲気に、翔は息を飲んだ。


(これが、プロとしての仁なんだ…)


しばらくして、仁がプロのカメラマンから離れ、翔のもとへ歩み寄ってきた。スタジオでのカッコよさとは一変し、彼は少しリラックスした笑顔を浮かべていた。


「どう?圧倒された?」仁がふざけるように言う。


翔は素直に頷いた。「本当にすごかった。圧倒されたよ。学校で見せる君と、まるで別人みたいだ。」


「でも、翔が撮る俺も、別の一面って感じだろ?」仁は照れくさそうに言いながらも、少し嬉しそうに見えた。


翔はその表情を見逃さず、シャッターを切った。スタジオでのプロの姿も、こうした柔らかな表情も、彼の中には両方の魅力が共存している。プロと友人としての仁、どちらもありのまま残したいと思い、翔は心を込めてシャッターを押し続けた。


こうして、翔は仁の専属カメラマンとして、特別な役割を担うことになった。仁の素顔とプロの姿、そのどちらもファインダー越しに切り取る日々が始まったのだった。

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