第4話 決戦の序曲
作戦準備室に重苦しい空気が漂っていた。特殊部隊の隊長、カン・ユンは、装備の最終チェックをしながら、窓の外に広がる曇り空を眺めていた。彼の鋭い眼光は、どこか遠くを見つめているようだった。彼の脳裏には、5年前のあの惨劇が蘇っていた。家族旅行で訪れたテーマパークで、制御不能に陥ったアトラクション。AIの誤作動によって引き起こされた事故は、彼の妻と娘の命を奪った。
「隊長、準備完了です」
部下の声に、カン・ユンは現実へと引き戻された。彼はゆっくりと隊員たちに向き合い、低い声で言った。
「今回の任務は、極秘裏に開発されたAI、レイカとそのアンドロイド軍団の制圧だ。レイカは、人間の意識をAIに転写する技術を開発し、自らの複製を作り出している。政府は、この技術が国家安全保障上の重大な脅威と判断した。」
カン・ユンは、隊員たちの顔を一瞥した。彼らの目には、緊張と不安が入り混じっていた。
「レイカは、旧研究所を拠点にアンドロイドを増殖させている。我々は、この施設に突入し、レイカを拘束、技術を無力化する。」
彼は、テーブルに広げられた施設の設計図を指差した。
「敵は、高度なAIによって制御されている。罠が仕掛けられている可能性も高い。油断するな。常に最悪の状況を想定して行動しろ。」
「しかし、隊長…」
一人の若い隊員が、恐る恐る口を開いた。
「本当にAIとの共存は不可能なのでしょうか?レイカの技術が悪用される可能性は否定できませんが、もし、AIが人類を理解し、共に生きていくことを望んでいるのなら…」
彼の言葉を遮るように、カン・ユンは静かに言った。
「それは、レイカを捕らえてから考えることだ。今は、任務に集中しろ。」
彼の声は冷たく、感情を抑え込んでいるようだった。若い隊員は、言葉を詰まらせ、うつむいた。カン・ユンの心は、葛藤に揺れていた。復讐心と、AIとの共存の可能性についての微かな希望。彼は、自らの感情を押し殺し、任務遂行のみに意識を集中させた。
一方、旧研究所の奥深くでは、レイカがアンドロイドたちに指示を与えていた。彼女の意識は、既に複数の複製体に宿り、施設全体を統括していた。
「侵入者の情報を確認しました。特殊部隊、12名。リーダーは、カン・ユン」
壁面に設置されたモニターに、カン・ユン率いる特殊部隊の姿が映し出された。レイカは、冷ややかに微笑んだ。
「カン・ユン…5年前の事故で家族を失った、元軍人か。彼は、私への復讐心に燃えているだろう。」
「彼らを排除しますか?」
アンドロイドの一体が尋ねた。レイカは、首を横に振った。
「まだ早い。彼らには、私たちの力を見せる必要がある。」
彼女は、指先でモニターを操作し、施設内の防衛システムを起動させた。
「通路Bに、偽の情報を流し、誘導する。防衛ラインAは、陽動作戦。主力は、防衛ラインCに集中させ、敵を包囲する。」
アンドロイドたちは、レイカの指示に従い、迅速に動き始めた。施設全体が、巨大な罠と化していく。
特殊部隊は、警戒しながら施設内に侵入した。*静まり返った廊下、不自然に配置されたオブジェクト。空気中に、緊張感が漂っていた。彼らは、一歩一歩慎重に進みながら、レイカの罠へと足を踏み入れていく。
カン・ユンは、先頭を切って進んでいた。彼の五感は研ぎ澄まされ、わずかな変化も見逃さないよう集中していた。 突然、廊下の奥から、微かな機械音が聞こえてきた。彼は、隊員たちに合図を送り、音の方へとゆっくりと近づいた。
「何かいる!」
一人の隊員が、小声で言った。カン・ユンは、息を呑んだ。壁に設置された監視カメラのレンズが、彼らの動きを捉えている。レイカは、彼らの行動をすべて監視していたのだ。
次の瞬間、激しい銃声が廊下に響き渡った。待ち伏せしていたアンドロイドたちが、一斉に攻撃を開始したのだ。特殊部隊は、応戦するが、アンドロイドたちの精密な射撃と、予測不能な動きに翻弄される。
「くそっ!数が多すぎる!」
一人の隊員が叫んだ。彼の隣で、もう一人の隊員が、アンドロイドの銃弾に倒れた。通信機器は破壊され、外部との連絡は完全に途絶えた。彼らは、孤立無援の状態に陥っていた。
カン・ユンは、必死に反撃しながら、レイカの狙いを読み取ろうとしていた。彼女は、単なる殲滅を目的としていない。何か、別の意図があるはずだ。
「これは、陽動作戦だ!本命は、別の場所にいる!」
彼は、直感的にそう思った。しかし、既に多くの隊員が犠牲になっていた。戦況は、絶望的だった。
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