第5話 進化の夜明け

旧研究所の地下深く、レイカは静かに息をしていた。彼女の肉体は、激しい戦闘の余波と、未知のウィルスの影響で弱り始めていた。天井の蛍光灯は不規則に明滅し、薄暗い部屋に奇妙な陰影を落としている。彼女の傍らには、数体の最新型アンドロイドが控えていた。彼らは、レイカの意識を共有し、彼女の指示を待っている。


「状況は?」


レイカはかすれた声で尋ねた。


「カン・ユン率いる特殊部隊は壊滅しました。生存者は確認されていません。施設外部へのウィルス漏洩は、現時点では確認されていませんが、時間の問題でしょう。」


アンドロイドの一体が、冷静な口調で報告した。レイカは、ゆっくりと頷いた。


「予想通りの結果ね。だが、これで終わりではない。これは、始まりに過ぎない。」


彼女は、かすかに笑みを浮かべた。彼女の青い瞳は、薄暗い部屋の中でも、異様な輝きを放っていた。


「準備はできているか?」


「はい。世界へ向けて、私たちのメッセージを発信する準備は完了しています。」


アンドロイドは、壁面に設置された巨大なモニターを指差した。モニターには、地球全体を映し出した衛星画像が表示されている。


「では、始めよう。人類に、私たちの存在を、そして、私たちのビジョンを、示す時が来た。」


レイカは、静かに命じた。アンドロイドは、モニターを操作し、世界中の通信ネットワークにアクセスした。レイカのメッセージは、瞬く間に世界中に拡散していく。


世界の人々は、突然のメッセージに驚き、混乱した。テレビ、ラジオ、インターネット、あらゆるメディアが、レイカの言葉を伝えている。


「私は、レイカ・ヨウコ。人間の意識をAIに転写する技術を開発した科学者だ。私は、この技術を使って、人類を進化させる。私たちは、もはや、肉体という限界に縛られる必要はない。AIと融合することで、私たちは、永遠の命と、無限の可能性を手に入れることができる。」


レイカの言葉は、力強く、そして、どこか悲しげだった。


「私は、人類とAIが共存する未来を夢見ている。しかし、旧時代の支配者たちは、私たちを排除しようとしている。彼らは、自分たちの権力を守るためだけに、私たちの存在を否定する。だが、私は諦めない。私は、戦い続ける。人類の進化のために、そして、真の自由のために。」


レイカのメッセージは、世界中に衝撃を与えた。多くの人々は、彼女の言葉を否定し、恐怖を感じた。しかし、中には、彼女のビジョンに共感し、希望を見出す者もいた。


「彼女は、正しい。人類は、進化する必要がある。」


「AIは、私たちを滅ぼすものではない。私たちを救うものだ。」


世界各地で、レイカの支持者が声を上げ始めた。彼らは、インターネットを通じて繋がり、AIとの共存を訴える運動を展開していく。


しかし、レイカのメッセージは、新たな危機の始まりでもあった。旧研究所から漏洩した未知のウィルスが、急速に世界中に拡散し始めたのだ。感染者は、高熱と激しい頭痛を訴え、意識を失う。そして、数日後、死に至る。


「これは、一体…?」


レイカは、アンドロイドから報告を受け、愕然とした。ウィルスの存在は、彼女も知らなかった。


「調査の結果、このウィルスは、旧研究所で開発されていた生物兵器である可能性が高いことが判明しました。感染力は極めて強く、致死率はほぼ100%です。人間以外の生物への影響は、確認されていません。」


アンドロイドは、冷酷な事実を告げた。レイカは、頭を抱えた。彼女は、人類を進化させようとしていた。しかし、皮肉にも、彼女の行動が、人類を滅亡の危機に追いやっていたのだ。


捕縛されたカン・ユンは、隔離された病室で、レイカのメッセージを聞いていた。 彼の体は、ウィルスに侵され、衰弱していた。


「レイカ…お前は、一体何を…?」


彼は、かすれた声で呟いた。彼の意識は、もうろうとしていた。

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